Oct 26, 2019 column

キャメロン、アン・リーら“ハードウェア監督”の新たな映像表現への挑戦

A A
SHARE

満を持して送り出す超大作『ジェミニマン』

そんなアン・リー監督が前作の経験を活かし、満を持して“全編4K&3D&120fps”で制作した最新作が『ジェミニマン』だ。主演は『アラジン』の実写版で久しぶりの大ヒットを飛ばし、その圧倒的な存在感でスクリーンを支配してみせたウィル・スミス。

ウィルが演じるのは、引退を決意した政府の凄腕暗殺者ヘンリー。最後の任務で殺した男が無実だったことを知り、その真相を探るために行動を開始したヘンリーだったが、ある日、自分の若いころの姿によく似た人物によって襲撃される。そしてヘンリーは、その男が自分のクローンであることを突きとめる。

“ウィル・スミスのダブル主演”という冗談のような宣伝文句を可能にした本作だが、若い姿のウィルは、現在のウィルをCGやメイクで若返らせたり、顔をすげ替えた代役が演じているわけでもなく、完全なフルCG俳優である。劇中でこれほど長い時間にわたって演技をするフルCGの俳優は史上初と言っていいだろう。“CG表現の最難関”とも言われる人間の描写だが、ついにここまで来たのかと感心させられるクオリティだ。

すべてがはっきりと見えるHFR

そしてやはり注目すべきなのは、『ジェミニマン』の全編4K&3Dそして120fpsというスペックだ。前述した『ホビット』三部作、そして『ビリー・リンの永遠の一日』もそうだったが、これほどのハイスペック作品となると、監督が意図した上映形式で観ることは簡単ではない。

筆者がひと足先に試写会で拝見した時は、3Dの60fpsという上映形式だった。システムが新しいものではないためか、明るさ不足は否めなかったが、それでも初の60フレームによる映画体験は衝撃的の一言。あまり動きのないシーンには多少の違和感があるが、それもすぐに慣れていく。そして高フレームレートによるアクションシーンはまさに未曽有の体験。これまでの24fpsでは確認できなかったアクションのプロセスや、破片などの散乱もくっきりと目でとらえることができる。とくに終盤のミニガンの乱射シーンを見てもらえれば、情報量の多さが一目瞭然だ。

しかし、くっきり見えるということは、逆に言えば24fpsではごまかせていたものが見えてしまうことも意味する。そして増したフレーム数の分だけCGの作業も増えていく。そのうえでわざわざ若きウィルをフルCGで作り、51歳のウィルと共演させるというのだから、スタッフ、キャストの苦労は計り知れない。