Feb 09, 2019 column

宇宙空間を追体験させる『ファースト・マン』若き天才監督の新たな“一歩”と挑戦

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アームストロング自身のドラマ、深い感情も見事に表現

 

一方で、チャゼルが演出家としての手腕を存分に発揮しているのが“月面着陸”という偉業と対比される、アームストロングの非常にパーソナルな人間ドラマ。ニール・アームストロングといえば教科書にも載っているような、言ってみれば“歴史上の人物”だ。現代の地球に生きていれば誰もが、彼が月に最初の一歩を踏み下ろした時に言った名言「これは小さな一歩だが、人類にとって大きな一歩である」を聞いたことがあるだろう。

 

 

またアームストロングは、冷静沈着で優等生的な宇宙飛行士として知られてきた人物だ。本作も決してそのイメージを崩すものではないのだが、そのクールな佇まいに、どれほどの深い感情が渦巻いていたのかを伝えることで、教科書的な知識に新たな視点を与えてくれる。難病のせいで幼くしてなくなった娘、危険な任務を支えてきた妻の想い、家族と向き合えない孤独感、そしてアームストロング自身が、一体何に駆り立てられて宇宙を目指したのか? そういったドラマティックな要素の数々を、チャゼルは説明的なセリフや描写に頼ることなく表現する術を見出している。

 

 

思えば『セッション』で描かれた師弟同士の骨肉の争いも、『ラ・ラ・ランド』の夢を追うがゆえの切なさも、チャゼルは映像そのものを使って伝えていた。『ファースト・マン』は決して饒舌な映画ではなく、むしろ寡黙さにこそ豊潤さを見出すような作品に仕上がっている。チャゼルが、モチーフを変え、かつてない規模の撮影に挑んだ新境地から、若き天才のこだわりと美学を存分に感じ取っていただきたい。

文/村山章

 

作品情報

 

『ファースト・マン』

『ラ・ラ・ランド』よりも先に企画されていたという、デイミアン・チャゼル監督の最新作。まだ携帯電話もなかった時代に、月へと飛び立ったアポロ11号。人類初の月面着陸という前人未踏の未知なるミッションにして人類史上最も危険なミッションが、アポロ11号船長ニール・アームストロングの視点で描かれる。

原作:ジェイムズ・R・ハンセン「ファーストマン:ニール・アームストロングの人生」
監督・製作:デイミアン・チャゼル
音楽:ジャスティン・ハーウィッツ
出演:ライアン・ゴズリング、クレア・フォイ、カイル・チャンドラー ほか
配給:東宝東和
公開中
©Universal Pictures
©2018 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:https://firstman.jp/

 

 

原作本紹介

 

「ファーストマン:ニール・アームストロングの人生」ジェイムズ・R・ハンセン/河出文庫

オーバーン大学歴史学教授であり、元NASA歴史学者のジェイムズ・R・ハンセンによる伝記。1969年、ニール・アームストロング船長率いるアポロ11号での月への第一歩という壮大なミッションの真実を明らかにする決定版。

 

関連作品紹介

 

『セッション』

Blu-ray:2800円(税抜) DVD:1800円(税抜)
発売中
発売元:カルチュア・パブリッシャーズ 販売元:ギャガ
© 2013 WHIPLASH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 

 

『ラ・ラ・ランド』

Blu-ray:4700円(税抜) DVD:3800円(税抜)
発売中
発売元:ギャガ 販売元:ポニー・キャニオン
© 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND. Photo courtesy of Lionsgate.

 

 

『2001年宇宙の旅』

Blu-ray:4990円(税抜) ※HDデジタル・リマスター&日本語吹替音声追加収録版 ※初回限定生産
発売中
発売・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
©1968 Turner Entertainment Co. All rights reserved.