Aug 19, 2025 column

三宅唱 監督の新作『旅と日々』がロカルノ国際映画祭で最高賞を受賞 ! 日本映画は世界で独自の地位を確立し、新世代の円熟期に突入

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日本映画の豊かさを、ロカルノの観客は誰よりも知っている

昨今では、早川千絵監督の『ルノワール』(2025)のような海外共同製作映画や、ヴィム・ヴェンダース監督の『PERFECT DAYS』(2023)のように舞台が日本で監督がドイツ出身など、様々な形の映画を一括りに”日本映画”と表現しているが、今回は日本人監督の作品を”日本映画”と表現させていただこう。

今回、本映画祭での最高賞となる金豹賞グランプリの受賞に加えて、ヤング審査員賞のW受賞を勝ちとった『旅と日々』(三宅唱監督)は、前評判がかなり高かった作品の一つであった。三宅監督作品は『Playback』(2012)以来、13年振り2本目の出品。今年同じく『たしかにあった幻』でコンペティション部門の入選を果たしている河瀨直美監督も過去には自身の長編2作目である『火垂』(読み:ほたる)が2000年に正式出品され、国際批評家連盟賞を受賞。過去にロカルノに参加している濱口竜介監督に至っては『ハッピーアワー』(2015) が当時まだ新人監督として知名度の低かった頃の作品であり、5時間以上の長尺映画であったにも関わらず、ここロカルノで映画人はじめ手放しで観客に認められ、主演4人が最優秀女優賞を受賞、濱口監督自身もロカルノ後にこの作品がフランスなどで大ヒットを記録し、一気にカンヌへの階段を駆け上った実績も持つ。そう、ロカルノで観客に認められた日本人監督たちは次々と着実に世界的なキャリアを積んでいっているのだった。

ちなみに過去には、日本人監督が4度金豹賞を獲得している。衣笠貞之助監督『地獄門』(1953)、市川崑監督『野火』(1959)、実相寺昭雄監督『無常』(1970)、小林政広監督『愛の予感』(2007)、そして今年の三宅唱監督。今回、三宅監督の記者会見で、メディアの一人から「濱口監督の作風に少し似ている」とコメントがあったが、三宅監督は「濱口監督は、僕の数少ない映画業界の中の友達であり、定期的に勉強会などを開いている」と述べ、2人が常に創作の良き仲間として切磋琢磨していることなど、自身の映画製作の過程を語っていた。

会場で、一部の海外メディアに日本映画についての印象や期待することを聞いたところ、「日本映画はジャンルが豊富」「ベテランから新人まで、対等にインディペンデント映画が作られており、規模に関わらずストーリーに対する構成が面白い」というコメントも出た。今年、ロカルノで出品された日本人3監督(河瀨直美監督、三宅唱監督、空音央監督)は、いずれも映画に対する目線や創作過程が全く異なるタイプであり、その3人をバランスよく選考し、丁寧に吟味したロカルノの底力を感じるとともに、監督たちのバックグラウンドや作品における規模やスタイルなどに関係なく、純粋に作品を評価し続ける観客が映画祭を離れないという映画祭の環境(=映画が全ての真ん中)がこの映画祭が長く続いている理由であること、垣間見れた気がする。

文・写真 / 高松美由紀

第78回 ロカルノ国際映画祭2025

19646年に設立、カンヌ、ヴェネチア、ベルリンにならぶ歴史ある国際映画祭。約8000人を収容することの出来る野外上映が毎晩繰り広げられ、観客動員も毎年16万人以上を記録している。今までに数々の日本映画も上映されており、近年では、青山真治監督『共喰い』(2013)や濱口竜介監督『ハッピーアワー』(2015)など世界を舞台に活躍する監督陣の作品が紹介されており、三宅監督作品は『Playback』(2012)以来、13年振り2本目の出品となる。

開催:スイス・ロカルノ

映画祭:2025/08/06 ~ 2025/08/16

MIFA(見本市):2025/06/10 ~ 2025/06/13

公式サイト https://www.locarnofestival.ch/

映画『旅と日々』

ビーチが似合わない夏男がひとりでたたずんでいると、影のある女・渚に出会う。翌日、ふたりはまた浜辺で会う。台風が近づき大雨が降りしきる中、ふたりは海で泳ぐのだった。つげ義春の漫画を原作に李が脚本を書いた映画を大学の授業の一環で上映していた。上映後、学生との質疑応答で映画の感想を問われ、「私には才能がないな、と思いました」と答える李。冬になり、李はひょんなことから訪れた雪荒ぶ旅先の山奥でおんぼろ宿に迷い込む。雪の重みで今にも落ちてしまいそうな屋根。やる気の感じられない宿主、べん造。暖房もない、まともな食事も出ない、布団も自分で敷く始末。ある夜、べん造は李を夜の雪の原へと連れ出すのだった‥‥。

監督・脚本:三宅唱

原作:つげ義春「海辺の叙景」「ほんやら洞のべんさん」

出演:シム・ウンギョン、堤真一

配給:ビターズ・エンド

©2025『旅と日々』製作委員会

2025年11月7日(金) TOHOシネマズ シャンテ、テアトル新宿ほか全国ロードショー

公式サイト bitters.co.jp/tabitohibi

高松 美由紀

スイス特派員
1973年生まれ、兵庫県出身。アメリカの大学卒業後、(株)トライアルで映画宣伝に従事。その後、東京国際映画祭はじめ国内外の映画祭にて運営や広報を経験しながら、映画の宣伝などを続ける。1999年から(株)TBSテレビにて、映画専門の海外セールスチームに所属、「下妻物語」「NANA」「日本沈没」など日本映画を海外に販売、映画祭への出品などを経験、退社後の2013年に(株)Free Stone Productions(映画&アニメなどの国内外PRおよび海外展開を提供する会社)を立ち上げ、現在も継続しつつ、合同会社Wonder M(ワンダーエム)でスイスを拠点にエンタテインメントの魅力を発信中。