Aug 19, 2025 column

三宅唱 監督の新作『旅と日々』がロカルノ国際映画祭で最高賞を受賞 ! 日本映画は世界で独自の地位を確立し、新世代の円熟期に突入

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ヨーロッパでは、夏のバカンス真っ最中である8月。スイスのイタリア語圏に位置する美しい湖に面したロカルノという街で開催される世界最古の映画祭の一つ、ロカルノ国際映画祭がつい先日盛況のうちに閉幕された。今年は、例年になく日本映画の注目度が高く、最終日には『旅と日々』(三宅唱監督)が見事、国際コンペティション部門の最高賞である金豹賞を獲得。ヨーロッパの夏の閑散期に実施するこの映画祭が78年も続き、たった11日間ほどで16万人以上の観客を動員するほど愛される理由とは。

スイスを拠点にエンターテインメントの魅力を発信している高松美由紀が、世界の様々な映画事情などを綴る『映画紀行』。今回は、日本であまり知られていないロカルノ国際映画祭の魅力を体験。世界における日本映画の立ち位置が如実にわかる今回の映画祭を少し俯瞰で見ていきたいと思います。

河瀨直美監督曰く「映画が全ての真ん中になっている映画祭」

スイスの南部に位置するイタリア語圏であるティチーノ州ロカルノで、1946年から開催されており、国際映画製作者連盟 (FIAPF) 公認の映画祭であるロカルノ国際映画祭。なんと、今年で78年を迎えており、世界的にも最も古い映画祭の一つとして、欧州では有名である。ちなみに、ヴェネチア国際映画祭は1932年にヴェネツィア・ビエンナーレの映画部門として設立、カンヌ国際映画祭はロカルノと同年の1946年にフランス政府により設立、ベルリン国際映画祭は1951年開催なので、いかにこのロカルノ国際映画祭が古くから親しまれているかが比較できるだろう。そして、ロカルノ国際映画祭の一番の魅力は、毎晩華やかに実施される野外上映である。街の中央広場「ピアッツァ・グランデ」が会期中は野外上映会場となり、ヨーロッパ最大の屋外スクリーン(26m×14m)では一度に約8000人の観客が映画を観賞することができる。ちなみに、2011年に本映画祭で『さや侍』はじめ、自らの特集上映に参加するためにロカルノ入りした松本人志監督と吉本興業の関係者が、この野外上映のスクリーンの大きさに感激し、吉本興業が主催していた沖縄国際映画祭では実際にロカルノからスクリーンを借りて、沖縄の海岸沿いで野外上映を実施していたことは、実はあまり知られていない。

今回ロカルノ入りしていた『旅と日々』の出演者・河合優実は「景色も美しくて、のんびりした映画の空間で素敵です」と述べており、河合と同じくロカルノ入りしていた主演のシム・ウンギョンは「一度は参加してみたかったロカルノ(国際) 映画祭でしたが、実際来てみると思った以上に映画愛が溢れている場所でした。そして、優雅で趣のある街全体に魅了されました」と、すっかり街の魅力に惹きつけられたようだ。今年、自身の新作『たしかにあった幻』をロカルノでワールドプレミア上映した河瀨直美監督が、記者会見で「この映画祭は常に映画が全ての真ん中にあって、最も心地良い映画祭の一つ」とコメントしていたが、”映画をみんなで享受する”というシンプルな理由が設立当初からブレていないからこそ、ここまで長く継続できているのだろうということが、現地にいると実感できる。