アルプスの山々に囲まれたフランス南東部に位置し、ヨーロッパで1、2を争う透明度を誇るアヌシー湖のほとりで開催されており、今年で49回目を迎える世界最大のアヌシー国際アニメーション映画祭(以下アヌシー映画祭)。年々規模拡大を続けているこの映画祭、世界中からアニメーションのファンやプロフェッショナル、学生たちが集まり、朝から晩まで様々なイベントが開催されている。スイスやフランスのの主要都市から離れた高級リゾート地であるアヌシーで長く続けられているこの祭典は、実はかなり緻密な戦略のもと、長期的な世界経済と文化発展を構築し続けているようである‥‥。スイスを拠点にエンターテインメントの魅力を発信している高松美由紀が、世界の様々な映画事情などを綴る『映画紀行』。今回は、世界のアニメーションを率先する世界最大のアニメーション映画祭を通して覗いてみたいと思います。

漫画の神様・手塚治虫は参加時にアヌシー映画祭を「この世の天国」と評した
実はカンヌ国際映画祭からアニメーション部門を1960年に独立させたことで設立された本映画祭。毎年規模を拡大しつつ、昨年の総来場者は約12万人を記録、今年もその記録を更新すると予測されるほど、活況である。長編や短編はもちろん、TV部門や学校の卒業制作部門など、かなり細分化した部門でそれぞれが賞対象として厳しく審査される。その中でも、やはり日本ブランドは群を抜いており、今年の長編コンペティション部門には日本人監督が手がける3作品、『ChaO』(青木康浩監督)、『Dandelion’s Odyssey』(瀬戸桃子監督)、『ホウセンカ』(木下麦監督)がノミネートされている。また、今年の特記すべき作品としては、昨年の第81回ヴェネチア国際映画祭のXR(エクステンデッド・リアリティ)部門にて世界初上映された『機動戦士ガンダム:銀灰の幻影』(鈴木健一監督)がVR部門にて上映、初期の「クレヨンしんちゃん」や「ちびまる子ちゃん」のクリエイティブに関わっており、世界でカリスマ的な人気を誇る湯浅政明監督が手がける吉本ばななの原作と奈良美智の絵による小説からの劇場アニメ『ひな菊の人生』(2026)がWIP(ワーク・イン・プログレス)部門で世界初情報解禁、そして、大ヒット作『この世界の片隅に』(2016)などを手がけるアニメ界の大ベテラン・片渕須直監督が作曲家・千住明氏とコラボレーションする自身の新作『つるばみ色のなぎ子たち』の企画内容が同じくWIP(ワーク・イン・プログレス)部門にて発表される。まさに、横綱クラスの重鎮から、卒業制作を持ってこれから世界に飛び出そうとしている新人たちまで、同じ土俵で切磋琢磨している状況であり、バラエティ豊かな日本からの作品は、毎年アヌシー映画祭の常連たちを唸らせている。

