ビデオテープの山の中から出会ったあの作品で、心に稲妻が落ちた
今回、改めて本映画祭の創設者の1人である、マリオン・クロムファスに本映画祭の立ち上げ当初の話を伺った。当時、映画学を専攻していた彼女ともう1人の創設者が、ドイツで観る機会がほとんどなかった日本映画を「フランクフルト大学で上映したい」と思いつき、海外の映画祭に飛び出して、日本映画を探す旅に出たのが始まり。

そこで、ベルリン国際映画祭の日本ブースに立ち寄って、当時視聴用に置いてあったVHSの山を片っ端から観ていったのだが、その数日後に彼らの人生を変える作品に出会ったのである。それが、豊田利晃監督の『ポルノスター』(1998) 。これは豊田監督の長編デビュー作であり、千原ジュニア(旧芸名:千原浩史)が演じる狂人の若者がナイフを振りかざして渋谷を疾走するという、音楽と映像のスピード感が冴え渡る作品として、当時の日本でもセンセーショナルに公開された。クロムファス氏が「こんな自由な映画が作られる日本。なんていう国なんだろう。」と、当時の衝撃を振り返るように、黒沢清監督、是枝裕和監督、北野武監督など日本の映画監督たちが徐々に世界の映画祭などで注目度を上げ、ヨーロッパではちょうど日本映画や日本文化への興味と関心が高まっていた時期でもあった。そのブームに乗って、第1回目の開催ですでに上映以外のセミナーやイベントなども併設しつつ、1500人ほどの来場見込みだったのが、その予想を遥かに上回る約1万人が初年度の4日だけで集まってしまった。


そして今。記念すべき今年の開催では、豊田監督の新作『次元を超える』(2025) とともに『ポルノスター』(1998) もリバイバル上映され、映画祭の古参ファンはもとより新規のファンが映画祭に集結して上映回では大きな盛り上がりを見せた。