映画に関わるプロが世界中から集結する三大映画祭の一つ、カンヌ国際映画祭。フランス南部の避暑地であるコート・ダジュール沿いに位置するカンヌのビーチで毎年華やかに開催されており、今年は5月13日から24日まで、この世界で最もきらびやかな”映画のお祭り”が続いている。実は、この映画祭は世界三大映画祭の中でも唯一、入場が映画業界者および報道等の関係者に限定されていて、一般客の映画鑑賞は(一部の上映を除いて)不可となっており、まさに”プロが集結する”映画祭としても有名。また、この華やかな映画祭の横で最大規模の映画マーケットが繰り広げられており、映画の売買も活発に行われている。
スイスを拠点にエンタテインメントの魅力を発信している高松美由紀が、世界の様々な映画事情などを綴る『映画紀行』。今回は、第78回 カンヌ国際映画祭2025に参加して、今回は華やかな祝祭とは別の視点で覗いてみたいと思います。

連日、早朝から深夜まで世界中から上映される最新の映画を観るために長蛇の列

“男と女”が意味するもの
今年のコンペティション部門の審査員長は、フランスを代表する女優ジュリエット・ビノシュ。その他、ハリウッド女優のハル・ベリー、インドの映画監督兼脚本家であるパヤル・カパーリヤー、イタリアの女優アルバ・ロルヴァケル、モロッコ生まれの女流作家でありジャーナリストでもあるレイラ・スリマニ、コンゴ共和国の監督兼プロデューサーのデュド・ハマディ、韓国のベテラン監督ホン・サンス、メキシコ出身の映画監督であるカルロス・レイガダス、そしてアメリカ出身の俳優ジェレミー・ストロングが務めるなど、ジェンダー&人種バランスで選出された審査員達である。
そして、今年の本映画祭期間中に開催されたケリング主催の「ウーマン・イン・モーション」の受賞スピーチにて、ハリウッドスターのニコール・キッドマンが「女性監督によるヒット作の数が驚くほど少ない」と発言し、現地で大きく取り上げられた。ちなみに今年のコンペティション部門に選ばれた22作品のうち、女性監督が手がけたものは7作品である。この数字をどう判断するべきか。キッドマンが指摘するジェンダー・バランスと、性別や人種関係なく作品のクオリティをフェアに上げていくための作品選考は、カンヌでさえも、いまだに試行錯誤を繰り返している途中である。

今年のコンペティション部門の審査委員長、ジュリエット・ビノシュ。黒レザーでシックなドレス
もう一つ。今年を象徴する公式ポスターは、本映画祭史上初の2種類を起用。クロード・ルルーシュ監督が手がけた『男と女』(1966 / 第19回カンヌ国際映画祭にてパルム・ドール受賞)のスチール写真からデザインされている。映画祭の公式コメントは「この抱擁は愛し合う男女を切り離すことはできないことを表現しており、カンヌ映画祭はその歴史の中で初めて、2種の公式ポスターを発表することにした。男と女。向かい合って、一緒に。」と述べている。また、「人々が分断、区別、上下関係のもとで成り立つ社会を推進しようとしている今、カンヌ国際映画祭は強い団結を望んでいる。身体、心、魂を一つにすること。自由を謳歌し永続させるために我々は発信していく。(映画祭公式プレスリリースより一部抜粋)」と強いメッセージを発信している。
2017年、ハリウッドの性被害告発から始まった#MeToo運動。昨年のカンヌ国際映画祭では過去に2人の大物映画監督から性被害を受けたことを映画祭開催直前に公表したフランスの人気女優ジュディット・ゴドレーシュのメディア露出など、フランスの映画界の#MeToo運動の第二波が大きく取り上げられ、なんともヒリヒリした映画祭であったが、今年は公式ポスターが象徴するように「男と女、もっと歩み寄っていこうじゃないか」ムードが醸し出されていたように思う。

映画祭会場はテロ対策のために、至るこころに障害物が設置されており、かなり移動が不便な映画祭会場でもある