肝心なところが見えない恐怖
『エクソシスト 信じる者』も、このオリジナルが原点になっている。モーガンクリークは映像化権利を25年前に取得していたが、しかるべき製作チームとタイミングを見極めていたのだという。そして、白羽の矢を立てたのは、『ゲット・アウト』『M3GAN/ミーガン』をはじめとした異色のヒット作を生み出してきた製作会社ブラムハウス・プロダクションズと、『ハロウィン』リブート・シリー3部作のデヴィッド・ゴードン・グリーン監督だった。
『―信じる者』の導入部はおよそ続編とは見えない。中盤に入って流れる印象的なメインテーマと、エレン・バースティンの再登場がなかったら、『エクソシスト』の続編にはなっていない。独立したオカルト映画とも言えるかもしれない。
主人公は、12年前に妻を亡くして以来、1人で娘のアンジェラを育てているシングルファーザーの写真家ヴィクター。ある日、アンジェラと親友のキャサリンが森で行方不明となるが、3日後に無事保護される。しかし、その日から2人の少女は突然暴れ出し、叫び、自傷行為を行うなど常軌を逸した行動を繰り返す。
ヴィクターはかつて憑依を目撃した経験者クリス・マクニールに助けを求め、悪魔祓いの儀式を始める。しかし、悪魔はこう問いかける。「1人は生き残り、1人は死ぬ。どちらかを選べ」。この究極の問いに、ヴィクターたちはどう対抗するのか‥‥。家族の結束、愛、信仰が悪魔に挑む物語だ。
製作チームは、第1作のシングルマザーの女優を、シングルファーザーの写真家に置き換えた。そして、そのシングルファーザーは、かつて悪魔祓いで生き残ったクリス・マクニールにたどり着く、という仕掛け。なるほど、こういう続編のやり方もあるのか。
マクニール役のバースティンは1971年の『ラスト・ショー』(ピーター・ボグダノヴィッチ監督)、『エクソシスト』でオスカーにノミネートされ、74年の『アリスの恋』(マーティン・スコセッシ監督)でアカデミー主演女優賞を獲得した大物。今年12月で91歳になる。
グリーン監督によれば、出演は数年前から打診していたそうで、脚本が出来上がってからは、さらに乗り気に。2人でマクニールの空白の50年間を埋めるアイデアを話し合ったのだという。かつて女優だったマクニールは悪魔祓いの経験を経て、どんな人間になったのかは、本編で見てもらう方がいいだろう。ただ、悪魔は老女に対しても容赦がない、とは言っておく。
グリーン監督はフリードキン監督流の見せ方も踏襲しているように思える。『エクソシスト』の怖さは、実は肝心なシーンを見せない怖さでもあったのではないか。少女が悪魔に取り憑かれた瞬間のシーンもないし、映画監督のバークを殺害されるシーンも描いていない。ないから、余計に想像力を膨らませてしまう。(ラストシーンも、神父が悪魔に「俺に取り憑いてみろ」と言って、取り憑かせてから、投身自殺を図るのだが、このシーンも、神父の勝利とも悪魔の勝利とも解釈できるようになっている)。
この『信じる者』でも、悪魔が2人の少女に取り憑くシーンは明確に描かれておらず、悪魔は1人なのか、2人なのかもよく分からない。その正体すらはっきりしない。それがかえって不気味さを増している。衝撃的なラストで幕を閉じる本作だが、これはリブート三部作の第1弾だということだ。続編の題名は『The Exorcist: Deceiver』(25年公開)。Deceiverは欺く者の意味。リブート作は、かつての黒歴史を払拭し、新たな船出を見せられるか。
文 / 平辻哲也
ヴィクターは13年前に妻を亡くして以来、1人で娘のアンジェラを育てている。ある日、アンジェラと親友のキャサリンが森へ出かけたきり行方不明になり、3日後に無事保護される。しかし、その日から彼女たちの様子がどこかおかしい。突然暴れ出し、叫び、自傷行為など常軌を逸した行動を繰り返す2人‥‥。ヴィクターはかつて憑依を目撃した経験者クリス・マクニールに助けを求め、悪魔祓いの儀式を始めるが、それは想像を絶する危険な試みだった。懸命に見守る両親を嘲笑い悪魔は問いかける。1人は生き残り、1人は死ぬ。どちらを選べと‥‥。
監督・脚本:デヴィッド・ゴードン・グリーン
出演:レスリー・オドム・Jr、アン・ダウド、ジェニファー・ネトルズ、ノーバート・レオ・バッツ、リディア・ジュエット、オリヴィア・マーカム、エレン・バースティン
日本語吹替版キャスト:諏訪部順一、佐倉綾音、鬼頭明里、竹村叔子、小林ゆう、仲野裕、仲村かおり、三木眞一郎
配給:東宝東和
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公開中
公式サイト exorcist-believer