今年の年末はいかがお過ごしでしょうか? 予定のある方もない方も、いま話題となっている配信オリジナル作品をじっくり観るのにいい機会。otocotoでは選りすぐりの人気作・話題作をご紹介します。
豪華俳優陣が繰り広げる世界アメリカ版本当にあったら嫌な話
「年末年始の休暇は、ほんの少しの間だけでも仕事や日常を忘れて過ごしたい」。そんなあなたにオススメしたいのが、終末スリラー映画『終わらない週末』だ。原題は『Leave the World Behind』、日本語で「世界を置き去りにして」という意味。ルマーン・アラムの同名小説に基づき、ドラマ『MR. ROBOT/ミスター・ロボット』(2015~2019)の俊英サム・エスメイルが脚本・監督を務めた。
ニューヨークに暮らす「人間嫌い」のアマンダ・サンドフォード(ジュリア・ロバーツ)は、世間を離れて家族との理想の週末を過ごすため、ロングアイランド島の高級賃貸住宅を予約した。夫のクレイ(イーサン・ホーク)と息子のアーチー、娘のローズとの穏やかな時間が始まるかと思いきや、近くのビーチでのんびり過ごしていたところ、石油タンカーが突如座礁。家に戻るが、携帯電話の電波は届かず、Wi-Fiも使えず、緊急事態ゆえにテレビ放送も中止されていた。
その夜、家主を名乗る黒人G・H・スコット(マハーシャラ・アリ)とその娘ルースが現れ、市内が停電したためにやむをえず帰宅した、地下室に泊めてほしいと頼み込む。神経質なアマンダは「本当に家主かどうかわからない」と拒むが、夫は親子を快く受け入れた。翌朝、アマンダがスマートフォンを確認すると、大停電の原因はハッキングだという通知が出ていた。一同は事態の真相を突き止めようとするが、謎と混乱は深まるばかりで‥‥。
確実に何かが起きている、しかしそれが何なのかはわからない。「世界を置き去りに」したのか、それとも世界から置き去りにされてしまったのか、ふたつの家族が体験するのは、理想の週末とは程遠い“終末”の時間だ。テクノロジーの麻痺ゆえに一切の情報を得られず、家族同士の関係はギクシャクしていく。そこにあるのは、「こんなことがあったら嫌だな」というリアリティたっぷりの悪夢だ。ドローンからばら撒かれる真っ赤な紙には異国の言語が書かれ、人種間で険悪な空気が流れ、やがて、とある陰謀の気配が口に出されはじめる。
この「本当にあったら嫌な話」を精緻に立体化するのは、何をおいても、ジュリア・ロバーツ、マハーシャラ・アリ、イーサン・ホーク、そしてケヴィン・ベーコン(怪演!)という豪華俳優陣の芝居合戦だ。トッド・キャンベルの撮影とマック・クエイルの音楽(『MR. ROBOT』以来のサム・エスメイル組だ)も、アルフレッド・ヒッチコック作品を思わせる映画的なダイナミックさと、観る者にじりじりと負荷をかける不穏さによって、言葉にしがたい緊張感をもたらす。
練られたプロット、きめ細やかな演出と撮影、優れた俳優たちのアンサンブル。かつては劇場公開が当たり前だった、これぞ「上質なサスペンス映画」である。限られたシチュエーションを舞台に現代社会の暗部をえぐり出す作風は、『ゲット・アウト』(2017)や『NOPE/ノープ』(2022) などのジョーダン・ピール作品をも思わせるものだ。
しかし、エスメイルがこの作品で試みたのは、ピールのようなホラー/スリラーではなく、むしろ風刺コメディへと接近することだ。登場するのはアメリカ人の家族だが、描かれる「悪夢」を形づくる諸問題はもちろんアメリカ社会に限ったことではない。『終わらない週末』が観る者に突きつけるのは、「常に進歩しなければ、常に良くあらねば」と訴えかけてきた/訴えかけてくる社会に対する、強烈かつ徹底的なアイロニーなのである。
文 / 稲垣貴俊
のんびり週末を過ごそうと、豪華な別荘を借りた一家。だが到着早々、サイバー攻撃により携帯やパソコンが使えないという不測の事態が起こる。そして、玄関口に見知らぬ男女2人が姿を現す。
監督・脚本:サム・エスメイル
出演:ジュリア・ロバーツ、マハーシャラ・アリ、イーサン・ホーク、マイハラ、ケヴィン・ベーコン、ファラ・マッケンジー、チャーリー・エヴァンス
Netflixにて全世界独占配信中