路線を確立した名作、転機となった前期の集大成
バートンの風変わりさは、作家性の濃厚な、バートン印としか言えない作品ばかり作っているにも関わらず、メジャースタジオの大作映画を次々とものにしていること。その皮切りとなったのが世界興収4億ドルという驚異的なヒットとなった『バットマン』だった。
そもそもアメコミの熱心なファンではなかったというバートンだが、バットマン=ブルース・ウェインと悪役ジョーカーに共通する“素顔を隠した狂人”という要素に惹き付けられ、シュールな悪夢のような世界観を作り上げた。この傾向は、ペンギン、キャットウーマンと新たに濃厚キャラを投入した『バットマン リターンズ』(92年)でもさらに推し進められた。現在では、ダークなテイストのヒーロー映画は珍しくなくなったが、バートンの『バットマン』二作がなければ、現在のヒーロー映画事情も変わっていたはずだ。
さらに『バットマン』の後に、バートンは自らのスケッチからアイデアを膨らませた『シザーハンズ』(90年)に着手する。この時、両手がハサミになった人造人間のロマンスというバートンにしか思いつかない内容に惚れ込んだのがジョニー・デップ。当時はテレビドラマのイケメンという扱いだったデップにとっても、本作のエドワード・シザーハンズ役は個性派の道を切り開くブレイクスルーになった。
そしてバートンは本作で、ダークでどこかいびつだが、万人に愛される感動ファンタジーという路線を確立した。同じようにバートンのスケッチから広がったというストップモーションアニメ『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』と並んで、最もバートンらしさを感じさせる二大人気作と言っていいだろう。
また、バートン作品に共通する“変わり者の孤独”というモチーフが凝縮された傑作が、“史上最低の映画監督”と呼ばれた実在の人物エド・ウッドの伝記映画『エド・ウッド』(94年)。B級どころかC級、いや、Z級の低予算ホラーで悪名を馳せたウッドの若き日を、白黒映像の夢の詰まった作品に仕上げたバートンの手腕とジョニー・デップの演技によって、バートン作品の中でも飛び抜けて批評的に絶賛を浴びた傑作となった。
バートンにとって転機となったのは、おそらく2003年の『ビッグ・フィッシュ』だったろう。確執のある親子の和解を縦軸にしつつ、破天荒なホラ話と病床の父との別れが同時進行する本作は、空想の世界に逃げ込まずにいられないバートン的な孤独感と、現実との折り合いをつけるという人間的成長とを融合させたストーリーであり、乱暴な言い方をすれば、バートン自身が大人へと成長を遂げていなければ大失敗作になっていたかも知れない。筆者としては本作をバートン前期の集大成だと位置づけている。