ディズニーが名作アニメーション『ダンボ』(41年)実写化の監督に選んだのは、ダークファンタジーの奇才ティム・バートン。孤独と狂気の淵を覗き続けてきたバートンはファンシーなディズニーの客層とは不釣り合いでは? しかしバートンは、ディズニーアニメーション『ふしぎの国のアリス』(1951)と同じ原作を基にした実写映画『アリス・イン・ワンダーランド』(10年)をものにした実績がある。しかしながら、実は『ダンボ』こそ、バートン向きの要素が満載の素材。『ダンボ』とバートンの親和性を読み解くべく、バートンのキャリアと作風の変遷を振り返ってみよう!
ディズニーから始まったキャリア初期、『ビートルジュース』の成功
ティム・バートンのキャリアの出発点はディズニーだった。学生時代に作った短編アニメが認められて、ディズニーのアニメーターとして雇われたのだ。当時同僚だったのが、後に『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(93年)を監督するヘンリー・セリックや『Mr.インクレディブル』(04年)のブラッド・バード監督。ただ、少年時代から周囲と馴染めなかったバートンは、ディズニーでも変わり者扱いだったらしいが、その特異な才能が認められてストップモーションアニメの短編『ヴィンセント』(82年)と、実写の中編『フランケンウィニー』(84年)を監督することになる。
『ヴィンセント』も、後にストップモーションアニメで長編化される『フランケンウィニー』も、幼少時からホラー映画と怪獣映画に魅せられて育ったバートンの趣味性が全開のアーティスティックな作品で、高い評価を得ている。ところが80年代当時はディズニーも短編や中編をどう扱っていいかわからず、もともとフラストレーションを募らせていたバートンはディズニーを離脱。しかし『フランケンウィニー』が認められたことで、長編映画を監督する話が舞い込んだ。コメディアン、ポール・ルーベンスの人気キャラを主人公にした『ピーウィーの大冒険』(85年)だ。
『ピーウィーの大冒険』は、見た目は大人、中身は子どもというピーウィー・ハーマンのキャラとバートンのイマジネーションが結びついた怪作だが、批評家からはこき下ろされてしまう。それでも作品はヒットしたので、バートンのところには次々と脚本が送られるようになる。そして唯一バートンの興味を惹いたのが『ビートルジュース』(88年)だった。
同作は、幽霊の夫婦と存命の一家が暮らす屋敷に、ちゃらんぽらんな怪人ビートルジュースが騒動を巻き起こすコメディで、バートンのダークでキュートなビジュアルセンスがナンセンスな内容と見事にマッチ。本作が大成功するや、ワーナー・ブラザースはバートンに打診していた『バットマン』(89年)の企画にゴーサインを出し、バートンのキャリアを大きく飛躍させることになる。また、ビートルジュース役で狂気と笑いをものにしたマイケル・キートンや、ヒロインを演じたウィノナ・ライダーら、その後もコラボする俳優たちと幸せな出会いを果たした作品でもあった。