偉大な文化人たちを登場させた真意とは
ディリリたちは、一連の少女誘拐事件の犯人が、“男性支配団”と名乗る女性差別主義者の集まりであることを突き止める。この団体名は架空であり、抽象化されているものの、このような思想を持った個人や団体は当時多かっただろうし、現在でも同様の差別的思想は根強く残っている。
オスロ監督は、本作でいままでになく差別に根ざした暴力をショッキングに描いている。その魔の手はディリリにすら及び、その痛ましい表現は観客の背筋を凍らせ、胸を刺し貫く。そして、男性支配団の差別思想はパリの権力者にも影響を与えていることが分かってくる。このおそろしい、しかし真実味のある描写にはオスロ監督の、現代まで続く差別的な思想への強い怒りが込められていることは言うまでもない。
では、どうすればそんな悪に対抗できるのだろう。ここで持ち出されるのが、パリの文化・芸術の力だ。芸術の本質とは、“真実”を表現することである。科学者の探求するものもまた、真実だ。もちろん権力に左右される者たちもいるが、真の芸術とは、学問とは、性別や人種における差別などというローカルで狭量でカルトな世界観を超越したところにある。真の芸術には、そういう世界を見せる力があるのだ。だからこそ、本作には偉大な文化人が登場し、狂った思想に抗うディリリに力を与えていたのである。
声楽家ナタリー・デセイが演じるオペラ歌手エマ・カルヴェの歌声が高らかに響き渡るクライマックスは、そんなベル・エポックの文化が、権力にこびへつらい、弱者を利用して甘い汁を吸おうとするような邪悪な企みや、旧弊な思想に対しての“勝利”を宣言している。『ディリリとパリの時間旅行』は、すべての表現者や、芸術や科学を愛する者のための作品であり、間違った方向へ歩み出そうとする者たちに気づきを与えるための作品なのである。
文/小野寺系
ベル・エポックの時代のパリ。ニューカレドニアからやってきたディリリが、パリで出会った最初の友人オレルとともに、町を騒がす少女たちの誘拐事件の謎を解いていく。エッフェル塔、オペラ座、ヴァンドーム広場など、パリの町を駆け巡り、事件解決にキュリー夫人やパスツール、ピカソ、マティス、モネ、ロートレック、プルースト、サラ・ベルナールら、この時代を彩った天才たちが協力する。二人は少女たちを助けられるのか――?
監督:ミッシェル・オスロ
音楽:ガブリエル・ヤレド
声の出演:プリュネル・シャルル=アンブロン エンゾ・ラツィト ナタリー・デセイ
日本語吹替版:新津ちせ、斎藤工
配給:チャイルド・フィルム
公開中
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