Aug 27, 2019 column

ベル・エポックの文化人が総登場!『ディリリとパリの時間旅行』に隠されたメッセージ

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『キリクと魔女』(98年)や『アズールとアスマール』(06年)など、溢れる知性とユーモア、そして芸術的なセンスで、規格外の傑作を作り上げてきたフランスの巨匠ミッシェル・オスロ監督。新たに手掛けた『ディリリとパリの時間旅行』(18年)は、本国フランスはパリ、19世紀末“ベル・エポック”の時代を舞台にした、アドベンチャー&ミステリー映画だ。新作のたびに予想を大きく超える圧倒的な作品を提供してきたオスロ監督だが、本作も期待以上の素晴らしさで、すでにこの時点で、“名作”と呼べる域に達していると感じられる。

舞台はベル・エポックの時代、美しいパリの街

多様な文化が花開いた19世紀末からの繁栄、ベル・エポックの象徴となったのが、1900年の万国博覧会である。本作は当然のように、その会場から幕を開ける。

主人公は、ニューカレドニアからやってきた少女ディリリ。『アズールとアスマール』に登場した少女シャムスサバ姫そっくりの、聡明で好奇心旺盛なキャラクターである。まだ小さな彼女と、配達人の若者オレルはコンビを組んで、パリで発生している少女誘拐事件を調査していく。ディリリたちは、文化が咲き誇った時代の華やかなパリのあちこちを駆け巡るのだった。

本作で使用されている背景の多くは、オスロ監督が自身で撮りためた写真による、本物のパリの歴史的な建造物などである。3DCGによって構築された人物は、二次元的に描写し直され、むしろ懐かしさを感じさせるテイストになっている。これでも成立させてしまえるのかと驚いてしまうが、影絵や切り絵、CGなど、アナログやデジタルの手法を縦横無尽にこなしてきたオスロ監督だからこそ、それらの要素を調和させることができるのだ。

ニューカレドニアから一人でやってきたディリリは、現地でフランス人教師から多くのことを学び、その小さな体に似合わず、すでに精神的な成長を遂げている自立した存在だ。そんな彼女のたくましさや知性、真っ直ぐな態度に、多くの人々が感心し、共感を覚える。しかし、そうでない者もいる。人種差別主義者や女性差別主義者である。

ベル・エポックの時代には、印象派やアール・ヌーヴォー、さらにさまざまな美術の形態が発生し、万博にあわせエッフェル塔やグラン・パレなど、パリを代表する近代建築が誕生する。エリック・サティやクロード・ドビュッシー、モーリス・ラヴェルなどの進歩的な作曲家が活躍し、カフェ・コンセール(ショーのある飲食店)やキャバレーでは、シャンソンが歌われた。そんな美しいパリの街に存在した文化人が、ディリリたちの捜査のなかで、次々に紹介されていく。

化学者のマリ・キュリー、ルイ・パスツール。戯曲『シラノ・ド・ベルジュラック』の作者エドモン・ロスタン、作家のアンドレ・ジッドやオスカー・ワイルド、マルセル・プルースト。そしてアール・ヌーヴォー建築のヴィクトール・オルタ、エクトール・ギマール、彫刻家のオーギュスト・ロダンとカミーユ・クローデルなど、次々に顔を見せていく、当時の著名人たち。フランス人以外に、国外から来ている才人たちも多い。