世界中のクリエイターたちに多大な影響を与えてきた人気漫画家・永井豪。彼の代表作である『デビルマン』『マジンガーZ』が新年早々に長編アニメーションとして蘇った。永井豪作品ならではの革新性はどのように活かされているのか、そしてどうアレンジされているのか。
天才漫画家・永井豪が2018年でデビュー50周年を迎えた。そんなメモリアルイヤーに、永井豪の代表作が続々と映像化される。その第1弾となるのが、1月5日(金)よりNetflixで世界同時配信された長編アニメーション『DEVILMAN crybaby』(全10話)だ。永井豪が1972年〜73年に「週刊少年マガジン」で連載した伝説のコミック『デビルマン』の完全アニメーション化であり、劇場アニメ『夜明け告げるルーのうた』(17年)でアヌシー国際アニメーション映画祭最高賞を受賞した湯浅政明監督が天才アニメーターとしての能力をフル発揮していることでも注目されている。
コミック版『デビルマン』(全5巻)を読み、衝撃を受けたという熱狂的なファンは日本だけでなく、海外にも多い。でも、なぜゆえ45年も前に発表された『デビルマン』はそこまでのカルト人気作となっているのだろうか。
主人公は不動明という気の弱い高校生だが、親友・飛鳥了から先住民族であるデーモン族(悪魔)との戦いに協力してほしいと頼まれたことから運命が一転する。了が呼び出したデーモン族の中の勇者アモンが明の体に取り憑き、明は悪魔の力と人間の心を持ち合わせた“悪魔人間”として生まれ変わることになる。悪魔+人間=デビルマンとなった明と人類を餌食にしようとするデーモン族との壮絶な戦いが幕を開けるわけだが、デーモン族は単純な悪の存在としては描かれておらず、2万年の眠りから目覚めた先住民族であるデーモン族と現人類との善悪の二元論を越えた生存競争の行方に原作ファンは夢中になった。
また、コミック版の後半では、デビルマンは人類を守るために戦っていたにもかかわらず、悪魔が実在することを知った人類はパニック状態に陥り、明の世話をしていた牧村家の人々が暴徒化した町内の人たちの魔女狩りに遭うという惨劇が待っている。当時の読者は、人間が同じ人間を笑いながら処刑するという驚愕エピソードにトラウマを抱えることになった。
Crybaby(泣き虫)という副題がもたらす新解釈
壮大なスケールを誇り、過激なバイオレンス描写もあるため、これまでにテレビアニメーション化(72年〜73年)や実写映画化(04年)されているものの、原作コミックの魅力に拮抗することは敵わなかった。ところが、湯浅監督の『DEVILMAN crybaby』は21世紀的に『デビルマン』の世界をアップデートしつつ、独自解釈も交えた“新約デビルマン”として完成している。
主人公の不動明とヒロイン・牧村美樹は同じ高校に通う陸上部所属選手という新設定となっており、アモンと合体したことで超人的な能力が宿った明が悪魔走りを見せるなど、湯浅監督らしい躍動するアニメーション表現が盛り込まれている。明と美樹を中心にした体育会系青春ドラマとしても大いに楽しめる。
Crybaby(泣き虫)という副題も気になるところ。デーモン族は感情を持たず、暴力衝動と性衝動のみで動く生き物だが、デビルマンとの死闘をめぐり、敵対するデーモン族側にも次第に感情が芽生えていく―という深遠なテーマが内包されている。原作ファンからの人気が高い妖鳥シレーヌが主役となる第5話は“神回”と呼びたくなるクオリティーだ。永井豪の原画と異なるキャラクターデザインに抵抗を感じた人も、『DEVILMAN crybaby』の中盤以降のストーリー展開には圧倒されるだろう。