トンデモ映画だと思ったら大間違い
さて、これを読んでいるあなた、本作をタイトルに引っ張られて、”どうせトンデモB級映画だろ?”と思ってやしないだろうか。確かに血みどろお笑い要素はある、でも、それだけじゃない。
出演俳優陣は「ジ・アメリカンズ 極秘潜入スパイ」(2013~2018)のケリー・ラッセル、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(2018)のオールデン・エアライク、『ストレイト・アウタ・コンセプトン』(2015)のオシュア・ジャクソン・Jr、『グッドフェローズ』(1990)、『ハンニバル』(2001)に出演し、惜しくも2022年急逝したレイ・リオッタをはじめ、クセ強キャストが勢ぞろい。個人的には、森林警備員を演じたマーゴ・マーティンデイルが、最初から最後まで最高だった。
加えて本作は、『スパイダーマン:スパイダーバース』をはじめ数々のヒット作を手がけてきたフィル・ロード&クリストファー・ミラーの最高にキマってる名コンビがプロデュースしている。
ロードは「自分たちが取り組んでいる映画は悪ふざけだと思う」とし、ミラーは「脚本家のジミーは、何をするにも思いやりが深い。だから、この映画のすごいところは、クマの殺人シーンがたくさんあるのに、とっても優しい心が感じられる点だ」とコメントしている。
まったくそのとおりで、言ってしまえば”ラリったクマが大暴れ!”ただそれだけど、鑑賞後には、なんかいい話をみたようなほっこりした気分になるから不思議だ。
80年代後半という、物語の時代背景をきちんと描かれているのも、その要因のひとつだろう。
最初のクマ被害者はヒッピーのカップルだったり、コカインを回収するギャングの買ったばかりのスニーカーが、初代エアジョーダン、他登場人物のファッションも80年代風に徹底している。
そして音楽を担当したのは、日本においてテクノポップ誕生のきっかけともなった、ニューウェーヴ・バンド「DEVO」の創立メンバーでリードボーカルのマーク・マザーズボウ。彼は、80年代の音楽シーンに流れていたよう特徴的で記憶に残るサウンドを生み出すため、「80年代に製作したアルバムで使っていた古いシンセを引っ張り出し」、可能な限り本物に近づけた。
70年代後半から80年代の映画を観て育ったという監督のエリザベス・バンクスは、本作を「その時代に捧げられるだけでなく、観客のために陽気で血みどろで面白い作品にできるだろう」と直感したそうだ。
コカインを発見する子どもたち、ティーディーとヘンリーの活躍は、『スタンド・バイミー』(1986)のような80年代映画感を彷彿させつつ、『E.T.』(1982)、『インディ・ジョーンズ/レイダース 失われたアーク《聖櫃》』(1981)などのスピルバーグ味を匂わせる。
それでいて「ホラーとコメディは表裏一体」とエリザベス・バンクスが言うように、動物を愛してやまない人間が無惨な殺され方をしたり、引きこもりのギャングに脅された頭のイかれたチンピラが発した「トカゲは聞き上手だけど、人は対話できる」とか、なんか深みのあるようでない助言で、お互いに涙したりして、最終的には、動物と人間の垣根を超えた、”母子の愛”的なもの描かれちゃってるような感じがして、なんだが頭がバグってくる。
上映時間95分、ぜひコーク片手に合法的な酩酊状態を味わってほしい。
文 / 小倉靖史
1985年、米ジョージア州の田舎町で暮らす少女・ディーディーは母親に内緒で友達のヘンリーと“秘密の滝”を目指し探検に出かける。意気揚々と森の中を散策する2人だったが、突然、背後から不気味な唸り声が聞こえてくる。恐る恐る振り返ると、そこには巨大なクマの姿が!まさかの出会いに立ち尽くす2人だが、クマの様子がどこかおかしい。なんと、そのクマは森の中で行方不明になったコカインを食べて狂暴化した<コカイン・ベア>だったのだ!コカイン・ベアから必死に逃げる子供たち。そこに娘たちを探す母親、森林公園のレンジャー、コカイン回収を目論むギャングと彼らを追う警察までもが森に集まり、一大騒動が幕を開ける!果たして彼らは“最狂のクマ”から逃れ、森を脱出することができるのか!?
監督:エリザベス・バンクス
製作:フィル・ロード、クリストファー・ミラー、エリザベス・バンクス、マックス・ハンデルマン、ブライアン・ダッフィールド、アディチャ・スード
出演:ケリー・ラッセル、オシェア・ジャクソン・Jr、オールデン・エアエンライク、イザイア・ウィットロック・Jr、クリストファー・ヒヴュ、マーゴ・マーティンデイル、レイ・リオッタ
配給:パルコ
©2022 UNIVERSAL STUDIOS
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公式サイト cocainebear