リアルにクマさんに出会ったら?
さて、作品冒頭に”アメリカグマは人は襲わない”とある。クマはもともと臆病な生き物だとされているが、人間を襲ったりしないのだろうか?
フィクションである本編では、クマに襲われた登場人物たちが、音を立てたり、木に登ったり、死んだふりをしたりしてやり過ごそうとするのだが、手足をもがれたり、食い千切られたりして、どうもうまくいかない。
では、熊に立ち向かうにはどうしたらいいのか?
かつて“熊殺し”の異名を持った空手家がいた。ウィリー・ウィリアムス(2019年逝去)だ。極真空手の創始者、大山倍達が牛を素手で倒して伝説になったのに対し、彼は熊と戦ったことで伝説となった。
現役時、身長196cm、体重100kgの恵まれた体格で、極真会館主催の第2回全世界空手道選手権大会において圧倒的強さで勝ち上がり3位に入賞。アントニオ猪木とも異種格闘技戦で対戦し、両者ドクターストップの死闘を繰り広げ、梶原一騎原作の劇画『空手バカ一代』でアメリカの強豪空手家として度々登場し一躍注目された強者だ。
“熊殺し”の異名がついたのは、1976年製作の映画『地上最強のカラテPART2』で巨大なグリズリーとの闘いを披露したからだ。
だが実際は、安全対策のため、グリズリーは爪と牙を抜いて、かつ満腹状態で、リアルな”熊殺し”とはいかなかったそうだ。格闘家という強者でもクマには歯がたたないのだろうか。
実は、日本でもクマに襲われた事例は多々ある。生還した被害者の中には、クマの顔面を殴って追い払った者もいる。なんでもクマは鼻が弱点だそうだ。
こうした生還者のアドバイスは、「木にのぼれ」、「物を振り回せ」、「ピッケル、ステッキの長物で撃退しろ」、「ヘルメットで頭と頸部を守れ」など多岐にわたる。中には「バカヤロウ!と叫べ」なんてのもある。まぁ、結局のところ「クマ撃退スプレー」が最強らしい。
日本において、記録の残る限り本州最悪の被害を出した獣害事件が、2016年5月下旬から6月にかけて、秋田県で発生した。山菜取りで入山した4名が死亡、4人が重軽傷を負った十和利山熊襲撃事件だ。
50年以上にわたりクマの生態を研究してきた米田一彦氏の著作「人狩り熊」(つり人社)には、事件の被害者で熊と闘い生還した方の証言がある。
彼は、タケノコ採りに出かけた朝、ツキノワグマに襲われた。1〜2mの距離まで接近してきたクマと15〜20分の睨み合いの末、覆い被さられてしまった。雨が降るなか、偶然持ち合わせていたカッターナイフで、目を斬りつけようとするが、クマは肘の動きで先読みをし、素早くかわす。クマの目を見ながら、近くにあった笹の根元を切り取り尖らせ、クマの右目に突き刺すとクマは逃げていったそうだ。
この事件、人を殺したクマは特定されることなく騒動に幕を降ろした。コカインは食ってないにしろ、腹をすかせた人喰いグマは、日本にも存在するのだ。