Oct 04, 2024 column

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』 すべてを目撃せよ、2024年の最重要作品

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凍り付いたフレームの余白に

「最初にどんなイメージにするか話し合ったときのインスピレーションは、カメラマンが写真を撮るためにカメラを顔に近づけると、その一瞬の0コンマ何秒が凍りつくというものでした。(中略)そのフレームの外で何が起こっていたのか?その静止画に至るまでに何が起こったのか?その瞬間の後に何が起こったのか?その美学にどうアプローチするのか?どのようにその世界を構築するのか?」(撮影監督:ロブ・ハーディ)*

カメラマンがシャッターを切る瞬間、世界がフリーズする。同時に世界のあらゆるノイズが瞬時に消え去る。冒頭シーンで爆弾の爆発に遭遇したジェシーは、あまりの恐怖に立ちすくんでしまう。ふと正気に戻ると、さっきまで隣にいたはずのリーが爆弾テロの決定的瞬間をカメラに収めている。百戦錬磨の経験を持つリーは、この程度の爆発で動じることはない。ジェシーはリーに向けてカメラを構える。ジェシーのカメラは父親から譲り受けたニコンの古いカメラだ(対照的にリーはデジタルカメラを使用している)。シャッターを切る。音のないモノクロームの世界が瞬時に凍りつく。フリーズ・フレームの余白には、ウィキペディアでは到底知ることができないリーの人生が浮かび上がっている。ジェシーはリーの背中を撮ることで彼女のジャーナリストとしての矜恃や、敢えて捨ててきたであろう人生を察していく。ジェシーはリーに質問する。「私が撃たれたら、その瞬間を撮る?」

ここには問いがある。破壊や殺戮を干渉抜きに記録し続けることはジャーナリストとしては正しい。しかしその勇気は人間性の喪失ともつながっている。このままジェシーを“モンスター”のように成長させてしまってよいのだろうか?どんどんアドレナリンを放出させていくジェシーをリーは複雑なまなざしで見ている。静止画の背後、余白にはカメラマンの“物語”がある。