『パスト ライブス/再会』との相違
本作の脚本を務めているのは、劇作家のジャスティン・クリツケス。彼は、第96回アカデミー賞では作品賞、脚本賞にノミネートされた『パスト ライブス/再会』(2023)の監督セリーヌ・ソンの夫として知られている。興味深いことにこの映画もまた、ノラ(グレタ・リー)、幼馴染みのヘソン(ユ・テオ)、夫のアーサー(ジョン・マガロ)の不思議な三角関係を綴った物語。ソウルに暮らす12歳の少女と少年が淡い恋心を抱き、ノラの海外移住で離れ離れになり、年月を重ねて大人となって、ニューヨークの地で24年ぶりに巡り合う。
封じ込めていた記憶がほどける。穏やかな凪がさざ波に変わる。三角形の均衡が少しだけ揺れる。ヘソンはアーサーに、アーサーはヘソンに、嫉妬を覚えたことだろう。だが、そこに支配をめぐる駆け引きはない。お互いを尊重し、分別のある態度をみせる。もちろん、ノラ自身も。なぜなら、グッド・オールド・デイズはとうの昔に過ぎ去り、皆大人になってしまったからだ。いや正確には、大人として振る舞わなければならない年齢になってしまったから、と言うべきか。
『パスト ライブス/再会』は、12歳、24歳、36歳と、12年周期で24年にわたる歳月を見つめていく。子どもから大人になるまでの変遷を、時系列順で追っていくのだ。それに対して『チャレンジャーズ』は、パトリックとアートがチャレンジャー大会決勝で激突する2019年を主軸に据えつつ、3人が初めて出会う2006年、タシとアートが再会する2009年、結婚を果たす2011年と、現在と過去を行き来しながら進んでいく。
一直線ではなくジグザグと物語が綴られるからこそ、タシたちは大人になることができない。過去と現在がシャッフルされた精神は、いつまでも子供のままだ。だからこそ彼らは互いに主導権を奪おうとして、大人気ない振る舞いを繰り返す。『パスト ライブス/再会』と『チャレンジャーズ』という、男女の三角関係を描いた両作品を最も大きく分け隔てるものは、リニア/ノンリニアの時制の使い方と、それに伴うキャラクターの精神性にある気がしてならない。
かつて三角形は、始まりと中間と終わりを示す神聖な図形として崇められていたという。『チャレンジャーズ』は、男女の三角関係というRELATIONSHIPのみならず、時系列すらもノンリニアな三角形を結んでいる。まさに究極のトライアングル・ムービー。この映画には、ルカ・グァダニーノの巧妙な演出術が張り巡らされている。
文 / 竹島ルイ
2人の男を同時に愛するテニス界の元スター選手と、彼女の虜になった親友同士の若きテニスプレイヤーの10年以上の長きにわたる衝撃の愛の物語。
監督:ルカ・グァダニーノ
出演:ゼンデイヤ、ジョシュ・オコナー、マイク・フェイスト
配給:ワーナー・ブラザース映画
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