我々に鋭く突きつけてくる、真の多様性
エドワード・ベルガー監督は、「ローレンスは閉じ込められて、閉所恐怖症のような感覚に陥る。私にとってこの映画は、70年代の偏執的な陰謀スリラーなんだ」と語る。トム・ハンクス主演の『天使と悪魔』(2009)でも、枢機卿が次々に殺される事件と並行してコンクラーベが描かれていたが、本作は政治闘争そのものが緊張感を生み出している。登場人物が座って話をしているだけの密謀劇を、ダイナミックなカメラワークによって、サスペンスを起動させているのだ。

「これを(最も)学んだのはパクラだ。『パララックス・ビュー』を観ていると、70年代の大スターの一人であるウォーレン・ベイティが出演しているが、彼は暗闇の中で2分間カメラに背を向けている。そして、ある特定のセリフやリアクションで、クローズショットやミディアムショットに切り替わる。彼は何を感じているんだろう?と、観客はもっと身を乗り出すようになるんだ」
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熾烈な政治闘争劇の末に、コンクラーベは決着。世界中の人々が見守るなか、歓喜のうちに新教皇が誕生した。ネタバレを避けるため詳しい言及は避けるが、最後の最後に明かされるその人物の”正体”は、真の多様性とは何なのか、本当にその多様性を受け入れる覚悟があるのかを、我々に鋭く突きつけてくる。我々の価値観を揺さぶってくる(床を這う亀はその象徴だろう)。エドワード・ベルガーが語るところの「70年代の偏執的な陰謀スリラー」は、「葛藤と倫理の社会派ドラマ」として帰着する。
『教皇選挙』は、世界最古たる家父長制の、小さな軋みに虫眼鏡を当てて、一級のサスペンス映画に仕上げた作品だ。それは反カトリック的でもなければ、反バチカン的でもない。コンクラーベを下敷きにした、ある種の思考実験。被験者は、観客自身なのである。
文 / 竹島ルイ

全世界に14億人以上の信徒を有するキリスト教最大の教派・カトリック教会。その最高指導者にして、バチカン市国の元首であるローマ教皇が死去した。悲しみに暮れる暇もなく、ローレンス枢機卿は新教皇を決める教皇選挙“コンクラーベ”を執り仕切ることに。世界中から100人を超える強力な候補者たちが集まり、システィーナ礼拝堂の閉ざされた扉の向こうで極秘の投票が始まった。票が割れるなか、水面下で蠢く陰謀、差別、スキャンダルの数々。ローレンスはその渦中、バチカンを震撼させるある秘密を知る。
監督:エドワード・ベルガー
原作:ロバート・ハリス著「CONCLAVE」
出演:レイフ・ファインズ、スタンリー・トゥッチ、ジョン・リスゴー、イザベラ・ロッセリーニ
配給:キノフィルムズ
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2025年3月20日(木・祝) TOHOシネマズ シャンテ 他 全国ロードショー
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