少年とヴァンパイアの愛を描き、日本でも熱い支持を受けたスウェーデン映画『ぼくのエリ 200歳の少女』(08年)。同じ原作者の新作『ボーダー 二つの世界』の公開が始まり、これまた信じがたい世界に導くと話題になっている。異形のキャラクターの魅力や、超自然的な要素と現実のリンク、そして衝撃シーンの扱い方など、『ぼくのエリ』とも比較しながら、極力ネタバレは避けて『ボーダー』の魅力を解説する。
『ぼくのエリ』原作者による新作
2008年のスウェーデン映画で、日本では2010年に公開された『ぼくのエリ 200歳の少女』。すでに10年も前の作品にもかかわらず、この映画の永遠の輝きに魅了されている人は多いだろう。12歳の少年と、タイトルにあるとおり、200年生き続けるヴァンパイアの危うい関係を、北欧の幻想的な風景が純化していく。ハリウッドでは早くも2010年にリメイク。そのあまりの素早さが、本作の人気を証明することになった。リメイク版の『モールス』は、ヒロイン役にクロエ・グレース・モレッツ、オスカーにあたる主人公のオーウェンを後に『X-MEN』シリーズに出演するコディ・スミット=マクフィー、監督も後に『猿の惑星』シリーズの2作を手がけるマット・リーヴスと、いま考えれば豪華な顔合わせだった。そのほかにも『ぼくのエリ』が影響を与えた映画は数多く、今年のカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した、ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』にもその片鱗がうかがえるのだ。
その『ぼくのエリ』と同じ原作者による新たな映画が『ボーダー 二つの世界』である。昨年の第71回カンヌ国際映画祭“ある視点”部門でグランプリを獲得。今年のアカデミー賞では、スウェーデン作品ながらメイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされた。この部門からわかるように、“異形”のキャラクターが登場し、彼らのラブストーリーも展開されることから、ギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』(17年)も連想させる。そのデル・トロ監督も大絶賛を惜しまないのが、この『ボーダー』である。
主人公のティーナは、冒頭でスクリーンに現れるなり、異様なムードを漂わせ、観る者の目をクギづけにする。スウェーデンの税関に勤める彼女は、並外れた“嗅覚”を使って、持込禁止の品物や、課税される物品などを手荷物に隠した旅行者をピックアップするのだ。違法の画像や動画を収めたメモリーカードまで発見し、犯罪を摘発することもあるほどで、単なる“匂い”ではなく、どうやら動物的な直感がはたらいているらしい…。こうした主人公のキャラクターだけで驚かせるが、そのティーナが税関で、自分と似たような外見の旅行者ヴォーレに出会ったことで、ティーナ自身にとっても信じがたい運命へと導かれていく。
全編に、どこかひんやりとした空気が感じられ、現実と異世界のファンタジーがゆるやかに融け合っていくムードは、『ぼくのエリ』とも共通している。原作者のヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストは、超自然的な設定を物語のメインにおきながら、その周囲は徹底して現実的状況にこだわるという世界観なので、『ぼくのエリ』も『ボーダー』も受け取る側に予想外の共感をもたらすことに成功している。