Oct 29, 2017 column

『ブレードランナー』新旧両作の繋がりや世界観を徹底解説する!

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『ブレードランナー 2049』

続編『ブレードランナー 2049』には、前作との繋がりが濃厚に散りばめられている

そして2017年、満を持して続編『ブレードランナー 2049』が完成した。舞台は前作から30年後のロサンゼルスということで、映画のインターバル(前作から35年後に続編が完成)とも微妙に重なる。つまり、2作とも製作時の約30年後の近未来を描いている、というわけだ。ストーリーはしっかり地続きとなり、正統派の続編と言っていい。

隠れて暮らすレプリカントを探すという、前作と同じブレードランナーの“基本業務”から始まるこの新作。気候変動による海抜の上昇などで、ロサンゼルスの居住区域は巨大な壁に囲まれ、貧困や病気も蔓延している。当然、食料も不足しているが、代替のプロテインとして育てられているのが昆虫の幼虫のような形態だったりと、近未来のダークさが冒頭から描かれていく。今回の主人公“K”(ライアン・ゴズリング)は、存在が違法である旧型のレプリカントを探すうち、ある重要な秘密の手がかりをつかんだことから、執拗に追いつめられ、そこに前作の主人公デッカードのその後の運命がシンクロする。

『ブレードランナー 2049』

この世界で大きな権力をもっているのは、新型のレプリカント“ネクサス9”を開発するウォレス社。2022年に起こった大停電のために、それ以前の電子的データはほとんどが失われたが、Kが見つけた証拠品が、大停電以前のわずかに残されたデータとリンクする。デッカードがレイチェルをテストする『ブレードランナー』の有名なシーンの会話の音声がノイズ入りで再現されるなど、前作との繋がりが濃厚に、あちこちに出てくるのだ。

さらに“退廃”に向かっているような未来を、世界観を崩さず荘厳な映像美で描写

『ブレードランナー 2049』

『ブレードランナー』で巨大な山のような外観を見せていたタイレル社は、今回そのままのシルエットで、同社を買い取ったウォレス社として登場する。社内のシーンでは、壁や人に水面の揺らぎのような反射が被さっているが、これも『ブレードランナー』でリドリー・スコットが演出で加味した手法。相変わらず雨の夜が多い都市風景も、立体的ネオンの広告や、怪しくうごめく住人たちなど、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は前作から進化させながらも、さらに“退廃”に向かっているような暗黒の未来を明示している。ロサンゼルスを上空から俯瞰するシーンでは、都市部がいかに隔離されているかを美しいカメラワークで見せているし、ウォレス社の内部のどこまでも続くデータ保管庫の風景など、とにかく映像という点で、『ブレードランナー』の世界観を崩さず、より荘厳に目の前に迫ってくるシーンの数々はめまいがしそうなほどだ。

音楽も『ブレードランナー』でのヴァンゲリスの曲が一部使われつつ、作曲家を変更してまでの新たなスコアは、ヴィルヌーヴの前作『メッセージ』(16)と同じく、物語の不穏さ、主人公の曖昧なアイデンティティーに寄り添って効果的。そしてラストに漂う、寂寞とした悲しみは、この映画が今後、何年も語り継がれるキーポイントになることだろう。

『ブレードランナー 2049』

『ブレードランナー』『エイリアン』『猿の惑星』……SF名作の最新版が続く理由は?

こうして鮮やかな復活をとげた『ブレードランナー』だが、2017年は偶然にも名作SF映画の最新バージョンが相次いで公開されている。『エイリアン』、『猿の惑星』、そして年末の『スター・ウォーズ』だ。冒頭に書いた「Time Out」の「SF映画ベスト100」にも、3位『エイリアン』(79)、6位『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(77)、すこし離れてだが、29位に『猿の惑星』(68)と、各作品の原点がランクインしている。SF映画の金字塔が今年、このようにアップデートされているのは、もちろんシリーズや続編、リメイクに頼りきりのハリウッドの現状が要因かもしれない。

しかし、たとえば『ブレードランナー』が描いた2019年がそこまで迫ってきた現在、かつて夢みていた未来の風景が現実になっただろうかと、クリエイターたちが深く考え、改めて未来の姿を模索しているような気もする。AI(人工知能)の技術が進み、レプリカントはどこまで現実味を帯びるのか? このまま地球の環境破壊が進んだら、人類の地球外移住もあり得るのか? 人類の次に何が地球を支配するのか? かつてはファンタジーの域だったトピックが次第にリアルな問題へと移りゆく状況を、映画に盛り込もうとする作り手たちの欲求……。それは名作SF映画の新たな復活を読み解くカギになるかもしれない。

文/斉藤博昭

作品情報

映画『ブレードランナー 2049』

(STORY) 舞台は2049年、貧困と病気が蔓延するカリフォルニア。人間と見分けのつかない人造人間“レプリカント”は、労働力として生産され、人間社会と危うい共存関係にあった。ロサンゼルス市警のブレードランナー“K”(ライアン・ゴズリング)は、人類への反乱を目論み、社会に紛れ込んでいる違法な旧レプリカントの“処分”任務にあたっていた。そんな最中、Kはレプリカント開発に力を注ぐ科学者ウォレス(ジャレッド・レト)の陰謀を知る。そして、人類存亡に関わるその陰謀を暴く鍵となる一人の男の存在にたどり着く。その男こそ、30年前に恋人の女性レプリカントと共に姿を消したかつてのブレードランナー、デッカード(ハリソン・フォード)だった。 彼が命をかけて守り続けた“秘密”とは何なのか? 30年の時を経て“衝撃の真実”が明らかになる。

製作総指揮:リドリー・スコット 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ 出演:ライアン・ゴズリング、ハリソン・フォード、ロビン・ライト、ジャレッド・レト、アナ・デ・アルマス、シルヴィア・フークス、カーラ・ジュリ、マッケンジー・デイヴィス、バーカッド・アブディ、デイヴ・バウティスタ 配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 2017年10月27日(金)公開 公式サイト:http://www.bladerunner2049.jp/

前作紹介

日本語吹替音声追加収録版 ブルーレイ(3枚組):5990円(税抜) 発売中 発売・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント TM & (c)2017 The Blade Runner Partnership. All Rights Reserved.

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