「夢」の実現、27歳での「死」
同じ頃にバスキアは、『ニューヨーク・ビート』という映画に出演（後に『ダウンタウン81』というタイトルで公開された）。ほとんどバスキア本人そのままの、その日暮らしの若いアーティストを演じている。この時にもらった出演料で初めてちゃんとした画材を買って絵を描き始めたというが、22歳でアメリカで初の個展を開いていることを思えば、バスキアの絵に向かう創造力はすでに爆発寸前だったのだ。
ひとたび画家として世に出てからのバスキアは、一躍スターダムへと躍り出る。アート界の巨人アンディ・ウォーホルに気に入られたこともあり、かつての仲間たちからは頭一つ抜けてアート界のセレブの一員になっていった。かねてよりファンだったビート作家のウィリアム・バロウズと知り合ったりもする。ドラッグに溺れ、急性混合薬物中毒で若い命を落とすまで、まさに駆け抜けるような人生だったろう。
このアートセレブ時代がバスキアの最盛期かも知れないが、映画『バスキア、10代最後のとき』はほとんどその時期に触れていない。むしろ関係者の証言は、あれだけ強く追い求めた「有名になる」という夢を実現させた戸惑いや寂寥のようなものを感じさせる。陳腐な言い方だが、同じ時代を共に生きた者たちにとって、バスキアが一番輝いて見えていたのは“10代最後のとき”だったのかも知れない。
最初に書いたように、バスキアの絵画は123億円（アメリカの画家の最高額）で落札されるなど、その価値は歳月とともにさらに高まっている。自由奔放なその作風をどう受け止めるかはわれわれ次第。しかしバスキア本人と彼が生きた時代を知ることで、アート界の巨人と自分との距離がぐっと近くなる。この機会に『バスキア、10代最後のとき』のようなドキュメンタリーや伝記映画『バスキア』に触れてみてはいかがだろうか？
文／村山章
『バスキア、10代最後のとき』
1988年に27歳の若さで亡くなってから30年、ドラマティックな成功から早すぎる死に散ったバスキアの生涯は、ジュリアン・シュナーベル監督の劇映画『バスキア』（96年）や、タムラ・デイヴィス監督のドキュメンタリー映画『バスキアのすべて』（10年）で描かれた。この2作とは全く異なるスタンスで、バスキアの真実に迫ったドキュメンタリー映画である今作。1978～81年頃のNYで、友人のアパートを転々としながらストリートに作品を刻みつけていたバスキアの“10代最後のとき”に焦点を当て、天才アーティスト誕生の秘密に迫る。
監督：サラ・ドライバー
出演：アレクシス・アドラー、ファブ・５・フレディ、リー・キュノネス、ジム・ジャームッシュ、パトリシア・フィールドほか
配給：セテラ・インターナショナル
2018年12月22日（土）公開
©2017 Hells Kitten Productions, LLC. All rights reserved.
LICENSED by The Match Factory 2018 ALL RIGHTS RESERVED.
Licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan.
公式サイト：cetera.co.jp/basquiat
『バスキア』
Blu-ray：3800円（税抜） DVD：2800円（税抜）
発売中
発売・販売元：ポニーキャニオン
(C)2006 PONYCANYON INC.
