人を形作るものとは
幼い頃、親に捨てられたり、監禁されたりして、人間の社会と引き離されて育った子どもの実例は少なくない。
なかでも、もっとも有名なのは、1920年に発見された、狼に育てられたインドのアマラとカマラだろう。
発見される前は、村人の間で”オオカミと一緒にいるふたつの幽霊”として恐れられており、キリスト教伝道師が真相を探るよう依頼された。彼はオオカミの棲む洞窟で見たものを、人間のような姿形をしているが、恐ろしいものと記録している。少女たちは四足で走り、とても人間とは思えなかったそうだ。
本作のバビーと似たような境遇、扱いを受けていた子供たちの事例を2つ紹介する。
ひとりが、ロシアのバードボーイことイワン・ユージン。2008年に発見されたとき、7歳。イワンは母親の飼っている鳥だらけの二間のアパートに閉じ込められていて、母親から話しかけられることはなく、ほかの鳥と同様、ペットのように扱われていた。しゃべることはできず、鳥のようなチュッチュという声を出すか、両腕を翼のように羽ばたかせることしかできなかった。
アメリカのジーニーの場合、部屋に13年間監禁されていた。おまるに縛りつけられ、寝るときは寝袋に入れられ、父親は彼女がなにか言うと怒鳴り殴りつけておとなしくさせた。父親はジーニーの母親や兄弟たちがしゃべることも禁じていたため、ジーニーは「やめて」とか、「もういらない」というような簡単なフレーズ以外ほとんどしゃべることができなかったそうだ。
発見されたのは1970年、彼女が本当は虐待の被害者だとわかるまでは、ずっと自閉症だと考えられていた。孤立児の最悪のケースだ。
ジーニーは子供病院に収容されて治療を受け、二択の質問に答えたり、自分で服を着ることを覚えた。セラピストと4年間暮らし、言葉を話さなくてもコミュニケーションがとれるよう手話や絵を描くことを教わった。その後、母親と暮らすようになったが、新たに里親に出されてしまう。そこで虐待されてまた言葉が退行し始めた。2013年時点では、ジーニーは南カリフォルニアのどこかで生活していたらしい。
人間の行動、習慣、知性、個性、性行動、攻撃的傾向などの心理的な発達に影響を与えるものは、一体何なのか。
つまり、これらは、人というものが形づくられているものが、何なのかを知る参考事例である。
人は環境が作るのか、遺伝子で決められているのか、それともその両方なのか?