強烈で斬新な物語で衝撃と感動を与える『悪い子バビー』が、10月20日に劇場公開された。
本作は、小さいながらも第50回ヴェネチア国際映画祭に出品され、審査員特別賞を受賞し、そのほか全3部門を受賞した作品。その評判は瞬く間に各国へと広がり20ヵ国以上で上映、ノルウェーでは年間興行収入第2位にランクインする大ヒットを記録した。当時、日本では『アブノーマル』というタイトルでVHSが発売されたのみで、今回劇場初公開となる。
母親に命じられるがまま、35年間、閉じこもって生きてきたバビー。彼が置かれている、目を覆いたくなるほどの悲惨な境遇に不安を抱きながらも、観る者を感動で包み込んだ傑作が30年の時を経て遂に日の目を見ることになった。決して一筋縄ではいかない物語である本作をいま劇場で観る意義、そして求められる覚悟にふれていきたい。
タブーを直視する
牢屋のように社会と隔絶され、地獄のような環境下で生まれ育ったバビー。母親の監視下で軟禁生活も35年目に突入したある日、自らを”パパ”と名乗る見知らぬ男が現れる。この出来事を機にバビーは、刺激的な外の世界へ飛び出すことになる。
何を見るにも新鮮なバビーは純粋無垢な心を暴走させる。街中を吠え回り、予想もつかない行動を繰り出す狂人ぶりだが、これは他者の視点であって、バビー本人は他者を真似ることで学習し、仲良くなろうとしているにすぎない。
偏見、差別、偽善、怒り、嫉妬、傲慢、淫蕩。あらゆる欲望や感情が渦巻く街でバビーは、人と出会い経験を重ね、人生のかたちを見つけ出していく。彼の目の前では、我々が直視することを避けてきたタブーが、次々と繰り広げられていく。それをバビーは学習し真似する。
つまり観客は、”大人になった奇妙な子ども”バビーのフィルターを通して、人間のかたちを目の当たりにすることになる。