Mar 02, 2017 column

宮沢りえ、妻夫木聡をはじめ、実力派俳優の華麗なる競演!
NODA・MAP『足跡姫 時代錯誤冬幽霊ときあやまってふゆのゆうれい』公演レポート

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客席の下手(客席から向かって左)歌舞伎の劇場のような花道があって、俳優たちがすぐそばまで来て演じてくれるのも嬉しい。
野田秀樹が行っている、東京2020オリンピック・パラリンピックの文化プログラムを先導するリーディングプロジェクトで、リオデジャネイロでのパフォーマンス後、仙台市でも行われた「東京キャラバン」のトライを活かしたかのようなビジュアル表現や、伝統芸能の能を取り入れるなど、感性に刺激をたくさんもらえる。幽霊の表現も、舞台ならではのアナログの力を見せつけられた。

 

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サルワカが書いた戯曲は残念ながら小難しくて、代わりに、売れない幽霊小説家(古田新太)が大衆向けにゴーストライターとなる。伊達の十役人と芝居小屋の対立は続き、裏切り、ニセモノ登場など阿国とサルワカ姉弟に危機が。そこに江戸城に入って将軍を討とうと目論む革命の志士・由比正雪か?(か?も含めて役名です 念のため)を慕う戯けもの(佐藤隆太)たちが出てきて、地球の裏側の話などもあって、話のスケールが大きくなっていくが、その一方で、じつにミニマムに、姉と弟、ふたりの絆が鮮やかに浮き上がってくる。

野田秀樹の舞台は、観ている間に、様相をガラリと変えて、まったく予想外のところへ連れていってくれることで定評があるが、今回も、はじまったときに言葉遊びなどで笑っていたときとまったく違う深遠な世界に引きずり込まれる。

 

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後半戦、宮沢りえと妻夫木聡の芝居は、与える感動が一直線でなく、波のように重層的で、余韻だらけだ。

妻夫木聡は、先日、ハヤカワ『悲劇喜劇』賞を受賞したケラリーノ・サンドロヴィッチの舞台『キネマと恋人』にも出ているが、初舞台は野田秀樹作品で、以後野田作品に何作も出ている。
映像を主戦場とする妻夫木が舞台に呼ばれるわけのひとつに、いわゆる舞台演技をしなくても観客に伝わることがある。このいわゆる舞台演技というのは、声や身振りが大きかったり、客席に正面に立ったりするもので、圧倒的な説得力を感じさせる利点はある反面、やや一面的な表現になりがちなところもある。その点、妻夫木の芝居は、舞台でも気張らずナチュラルに見える。それでも、心は十分伝わってくる。とりたてて何か目立つことをしていなのに妙に心に引っかかる多層性がある。それが、映画『愚行録』でも効果を成していた。

そして、宮沢りえ。彼女も元々はテレビドラマや映画で活躍していたのが、坂東玉三郎の舞台などを経て、 野田秀樹や蜷川幸雄の舞台で活躍するようになる。並行して映画も、横領する銀行員役の『紙の月』が話題になり、次の『湯を沸かすほどの熱い愛』は、娘のためにまさに命を燃やす母の愛をその細いカラダのどこからエネルギーが出てるんだ? というくらいに熱演していた。

舞台俳優が映像で貢献することに注目が集まる昨今だが、映像から始めた俳優たちが舞台をより楽しめるものにしてくれてることにも、是非注目してほしい。
『足跡姫』は、アップもある映像の世界で主演を張ってきた宮沢りえ、妻夫木聡だからこその、心ふるえるクライマックスがある。

中村勘三郎へのリスペクトに満ち満ちた、この極私的な思いは、野田秀樹や宮沢りえに限ったものでなく、誰しもの心にある大切な人への思いを呼び起こす。
ふと、子供が見てもさぞや楽しい舞台であると書いて思い出したのは、『絵本 夢の江戸歌舞伎』。それは中村勘三郎の先祖が江戸につくった歌舞伎小屋・中村座とその興行について詳しく描かれた絵本で、この舞台『足跡姫』もこの本同様に、歌舞伎や演劇の魅力を後世に語り継ぐために一役買う作品になっていくのだろう。

文 / 木俣冬

 

NODA MAP 『足跡姫 時代錯誤冬幽霊ときあやまってふゆのゆうれい』

作、演出:野田秀樹
出演:宮沢りえ 妻夫木聡 古田新太 佐藤隆太 鈴木杏 池谷のぶえ 中村扇雀 野田秀樹

 

公演期間:2017年1月18日(水)〜3月12日(日) 東京芸術劇場プレイハウス
※当日券は、各公演の開演1時間前(14時公演の場合は13時、19時公演の場合は18時)東京芸術劇場2階プレイハウス前にて先着順で販売

公式サイト:http://www.nodamap.com/ashiatohime/