楽しく生きようぜ悲哀の中年世代
本作が単なる夢を諦めきれないダメおじさんたちの青春パニック映画になっていない。迷える中年たちに向けた人生の応援歌だ。これは冒頭から意図的である。
本編は、まだ何者かわからない美女アナが「人生を変えるチャンスよ」と盗んだバイクで走り出し、誰かから逃げるシーンから始まる。自由への疾走から始まるのだ。

結婚式ビデオを撮るダグは、当初、自分の人生を”BまたはBプラスの人生”だと受け止めており、仕事を投げ出して夢のために生きるつもりは毛頭なかった。しかしあるとき、新婚カップルにホラーテイストの撮影を提案するが、彼らは、ポーラ・コールによる楽曲『I Don’t Want to Wait』(1996)にのせてジャンプする映像を撮ってくれと熱望する。この仕事きっかけにダグは「人生が終わるのを待ちたくない」と、リメイク版制作に乗り出す決意する。
この楽曲、日本では『シティ・オブ・エンジェル』(1998)の予告編でお馴染みだが、ティーン向け米国学園TVドラマシリーズ『Dawson’s Creek/ドーソンズ・クリーク』(1998〜2003)の初代主題歌として米国人には有名らしい。そして、歌詞は重めで反戦歌である。一見、ダグは”いつまでも映画監督の夢を諦めきれない残念なおじさん”だが、歌詞の内容を知っていると、クライアントはわかっちゃいない感、そんな仕事をしている自分の境遇へのフラストレーションが決して独りよがりでないように思えてくる。

撮影チームの紅一点のクレアだって、ただ『アナコンダ』好きの幼馴染だから参加したわけではない。生まれ育った街を出て、堅実な道をあるいてきたが離婚を経験し、いまひとりぼっち。思うようにいかない「クソみたいな人生だし」と撮影参加の理由を元彼のグリフ吐露する。ケニーに至っては、おじさんの残念な要素が精神的に肉体的に集約されている。それぞれが中高年の悩みを抱えているが、これを決して重くなくユーモラスに描いているのが素晴らしい。
コメディもアクションもホラーも人間ドラマも全部入りで古き良きジャンプスケアも火薬マシマシ。それでいて胃もたれしない爽快感。主要人物みんながものすごく楽しそうで、見ているこちら側も元気が出る。ちゃんとワクワクさせてくれる単純な面白さが、ホクホクした笑顔で劇場を後にした、あの頃を思い出させてくれるはずだ。

ダグとグリフたちは『アナコンダ』のリメイク版を制作をすることで取り戻しものがある。では、観ている”私たちのアナコンダ”とは何なのか。
本作は、とびっきりに人生が変わるわけじゃないけれど、楽しく生きることの大切さを思い出させてくれる。誰しもが、思い描いたあの頃に未来に立っているわけじゃないかもしれない。ただ、現在の年齢になったからこそ、できることがあるはずだ。
コンプライアンスにがんじがらめになっている、紳士淑女の皆さんへ。ただただ劇場でバカ笑いしてほしい。小さくまとまってないで、バカになれ! 大人のふりして諦めちゃ、奇跡は起こせない。もっとワイルドにもっとたくましく生きてみたくなる。『俺たちのアナコンダ』は、そんなロマンティックが止まらない映画である。
文 / 小倉靖史

映画オタクのダグとグリフは“一番のお気に入り”『アナコンダ』のリメイクを決意するも満足な融資を受けられず、仕方なく本物のヘビを使って撮影することに。ところが、グリフが誤って主役のヘビを殺してしまう大珍事が発生! 焦った一行は代役のヘビを探すべくジャングルの奥地へと繰り出すが、そこには本物の大蛇アナコンダが待ち受けていた! 果たして、彼らはアナコンダから逃げ切り、悲願の自己流『アナコンダ』を完成させることができるのか!?
監督:トム・ゴーミカン
出演:ジャック・ブラック、ポール・ラッド、スティーヴ・ザーン、タンディウェ・ニュートン、ダニエラ・メルキオール、セルトン・メロほか
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
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