「ここまでやるか」のサービス精神
アルバレスの凄みは、これが『エイリアン』シリーズであるにもかかわらず、自身のサービス精神をとことん詰めこんだ点にもある。人間対エイリアンのスリリングな密室劇はシリーズのコアと言える部分だが、そこに人間とアンドロイドの「感情」をめぐる対立や、「感情」があるからこそ選択のエラーが発生するのだという哲学的なテーマを盛り込み、後半にはタイムリミット・サスペンスの要素まで取り入れた。シリーズのファンを喜ばせる、過去作からの引用と参照もたっぷりと用意されている。
『ブレードランナー 2049』(2017)や『ザ・フラッシュ』(2023)、『ツイスターズ』(2024)など近年ますます活躍の幅を広げるベンジャミン・ウォルフィッシュによる音楽は、ハリウッドのSF大作らしい王道のサウンドから、ときには異様なハイテンションで作品世界に観る者を引きずりこむ。『エイリアン』シリーズ、あるいはアルバレス作品ならではの新境地と言えるが、多面的な映画を「音」がまとめていることもまた確かだ。
クライマックスに近づくにつれ、本作のストーリーと演出は「そこまでやるか、まだやるか」と思わせるほどに常軌を逸していく。『ドント・ブリーズ』を思わせるエネルギッシュさは作り手の執念を感じるほどだが、クリエイターのビジョンだけが先行するのではなく、レイン役のケイリー・スピーニーほか俳優陣の演技がドラマとしての信憑性をもたらしたところもひとつの美点。恐怖と混沌が増してゆくなか、パーソナルな人間ドラマに瞬時に引き戻せるだけの強さがある。
シリーズの本質を抽出しながら、監督フェデ・アルバレスの作家性とストーリーテリング、そしてサービス精神を惜しみなく注ぎ込んだ『エイリアン:ロムルス』。やや過剰にも思えるほどのクリエイター精神だが、シンプルかつ骨太な映画製作によって、シリーズのファンのみならず新たな観客もきっちりと楽しませてくれる一本だ。『エイリアン』シリーズにはまだまだやれることがある‥‥そんな未来の可能性を垣間見せてくれる快作である。
文 / 稲垣貴俊
『エイリアン』と『エイリアン2』の間に位置する時代。地球から遠く離れた宇宙で、人生の行き場を失った若者たちが、廃墟と化した宇宙ステーションを発見。人生の再起をかけて探索を開始する。だが、そこには希望ではなく、逃げ場のない絶望的な恐怖が待っていた。
監督:フェデ・アルバレス
製作:リドリー・スコット
出演:ケイリー・スピーニー、デヴィッド・ジョンソン、アーチー・ルノー、イザベラ・メルセード
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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