Sep 06, 2024 column

『エイリアン:ロムルス』シンプルで骨太な原点回帰、監督フェデ・アルバレスの演出力

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巨匠リドリー・スコット監督による『エイリアン』(1979)から45年。SFホラー映画の金字塔、『エイリアン』シリーズが現代に蘇った。最新作『エイリアン:ロムルス』は、シリーズ第1作の“その後”を描いた原点回帰にして、あらゆる要素を一新した新機軸だ。

創造主であるスコットをはじめ、ジェームズ・キャメロン、デヴィッド・フィンチャー、ジャン=ピエール・ジュネと、そうそうたる顔ぶれが監督を務めてきたシリーズに、新たな監督として起用されたのは『ドント・ブリーズ』(2016)のフェデ・アルバレス。「もしも過去作を観たことがないのなら、本作はその最初の1本となる素晴らしい機会だ」と豪語し、シリーズの初心者でも楽しめる間口の広さとクオリティの高さを保証した。

その言葉通り、本作はアメリカで公開されるや有名レビューサイト「Rotten Tomatoes」で批評家スコア81%・観客スコア86%を獲得(スタート時点)。『エイリアン』と『エイリアン2』(1986)に続き、シリーズでも屈指の高評価を受けている。

『エイリアンvsプレデター』シリーズや、スコットが手がけた前日譚『プロメテウス』(2012)『エイリアン:コヴェナント』(2017)など、一時は紆余曲折を経たフランチャイズを、鬼才アルバレスはいかにして復活させたのか。

『エイリアン』の新たな物語

西暦2142年、人類は宇宙まで活動圏を広げていた。人命が軽視される劣悪な環境、ジャクソン星採掘植民地にて働く女性・レインは、“姉弟”としての絆で結ばれているアンドロイドのアンディとともに遠い惑星へ旅立つことを夢見ている。ところが、移動許可はなかなか下りないままだ。

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ある日、レインの元恋人であるタイラーが、とある計画を提案した。上空を漂流している宇宙ステーションを乗っ取り、船と設備を使えば、移動許可の問題を無視して旅立つことができるというのだ。頼みの綱は、船のセキュリティを突破できるアンディ。レインとアンディ、タイラーと妹のケイ、労働者のビヨンと恋人のナヴァロは、チームを組んで行動を開始する。 一同は廃墟同然となった宇宙ステーションを復旧するが、現状の燃料では遠くの惑星まで向かうことができない。代替案として、貯蔵庫に保管されていた冷凍燃料を追加しようと考えるが、同じく冷凍保存されていた“何か”をひょんなことから呼び覚ましてしまう。

「寄せ集め」の若者たち

『エイリアン』シリーズの大きな特徴といえば、密室空間で展開するエイリアンとの対決であり、第1作から『エイリアン4』(1997)まで、約20年間にわたって主役を張ったリプリー役のシガニー・ウィーバーだろう。ところが本作は、前者の「密室劇」というテイストや、人間とアンドロイドが共存する設定を継承しつつ、新たな方向に物語の舵を切った。

ポイントは、レインとアンディの“姉弟”をはじめ、今回の登場人物たちがみな寄せ集めの若者であることだ。強靭な肉体や特別なスキルをもった軍人もいなければ、宇宙船の専門知識を有するクルーもいない。彼らはあくまでも、植民地からの脱出、つまりは現在の生活を脱却することだけをモチベーションとするチームなのだ。

ごく普通の若者たちが、エイリアンという未知の脅威に対峙する。『ドント・ブリーズ』のフェデ・アルバレスにとって、この筋立てはいわば得意分野だろう。なにしろ『ドント・ブリーズ』は、強盗を目論んだ若者3人が民家に侵入し、盲目の元軍人に追跡されるというスリラー映画だったのだ。「民家」を「宇宙ステーション」に、「盲目の元軍人」を「エイリアン」に置き換えれば、物語の構造がそっくりであることがわかる。

アルバレスとともに共同脚本を手がけたのは、『ドント・ブリーズ』も執筆したロド・サヤゲス。特筆すべきは、『エイリアン』のキモである密室でのアクション・ホラーを三幕構成の第二幕まで取っておき、第一幕は人間関係をじっくりと掘り下げる、SFスリラーとしてはややスロースタートの青春劇としたことだ。

時間をかけて若者たちの微妙な関係を描きながら、人間とアンドロイドの間にある差別や暴力などを見せることで、設定が現実世界のメタファーとなっていることを示唆する豊かさ。それらがすべて中盤以降の布石になっていることを含め、たいへん細やかに練り上げられた脚本である。