今年の作品賞は“2強”だが、監督賞とバラけさせる可能性も？もし大逆転があるなら…？
今年のアカデミー賞作品賞には9作品がノミネートされた。この数は昨年と同じ。アカデミー賞では強いといわれる実話の映画化作品も3本入っている（昨年の実話は9本中3本、一昨年は8本中4本）。このうち、すでに日本でも劇場公開された『ダンケルク』は第二次世界大戦のリアルな戦闘風景を追求。『ペンタゴン・ペーパーズ／最高機密文書』は政府が隠す真実を暴くジャーナリストを描き、『ウィンストン・チャーチル／ヒトラーから世界を救った男』は英国のチャーチル首相の、戦時下での知られざる苦悩と選択を見つめた。3作とも、実話ならではのメッセージ性の強さが際立つ。
『ウィンストン・チャーチル／ヒトラーから世界を救った男』（2018年3月30日公開） © 2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.
ただ、同じく“社会派”という側面なら、被害者の母親が警察や社会に立ち向かう『スリー・ビルボード』や、種族を超えた愛を貫く『シェイプ・オブ・ウォーター』にも備わっている。異人種間の愛がとんでもない運命になだれ込み、ノミネート作品では異色のジャンルとなった『ゲット・アウト』も、その意味では社会派かもしれない。一方で『君の名前で僕を呼んで』や『レディ・バード』は、若い主人公の愛や成長を描いた、瑞々しさが持ち味。映像にこだわった『ファントム・スレッド』が異彩を放っている。
『レディ・バード』（2018年6月公開） © Merie Wallace, courtesy of A24
この作品賞に関しては、前哨戦を引っ張ってきた『シェイプ・オブ・ウォーター』と『スリー・ビルボード』の争いになりそうだ。特に『シェイプ・オブ・ウォーター』は最多の13部門ノミネートで、『スリー・ビルボード』が入らなかった監督賞部門でも栄冠が濃厚なので、頭ひとつ抜けている。しかしここ数年、作品賞と監督賞が別の作品になるケースも多く、「作品賞は『スリー・ビルボード』に」という投票者の心理がはたらく可能性も高い。大逆転があるとしたら、興行でも成功し、『シェイプ～』に次ぐ8部門ノミネートの『ダンケルク』や、他の作品とは明らかに作風が違う『ゲット・アウト』あたりか。
ただし、昨年が『ムーンライト』（黒人でゲイという主人公）、一昨年は『スポットライト 世紀のスクープ』（ジャーナリストの実話）が作品賞に輝いているので、やや路線の違う“2強”は揺らがないだろう。
監督賞・俳優賞はほぼ前哨戦通りか。日本人候補者・辻一弘の受賞確度は？
その他の主要賞は今年に限っては、ほぼ“鉄板”と言えるかもしれない。ゴールデン・グローブ賞や各組合賞の結果から、監督賞はギレルモ・デル・トロ、主演男優賞はゲイリー・オールドマン、主演女優賞はフランシス・マクドーマンド、助演男優賞はサム・ロックウェル、助演女優賞はアリソン・ジャネイが、それぞれダントツのリードである。特にゲイリー・オールドマンは、歴史上の人物というアカデミー賞好みの役であるうえに、これまでの実績を加味されて確実ではないか。他の演技部門は、わずかながら逆転劇の可能性も秘めている。
『ウィンストン・チャーチル／ヒトラーから世界を救った男』（2018年3月30日公開） © 2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.
そして日本人として気になるのは、メイクアップ＆ヘアスタイリング賞にノミネートされた辻一弘だ。今回、受賞の確率は、かなり高いだろう。彼自身、3度目のノミネートであり、過去2回と違って対象作品の『ウィンストン・チャーチル／ヒトラーから世界を救った男』が作品賞など主要部門に絡んでいるからだ。しかも辻は、『シェイプ・オブ・ウォーター』でも特殊メイクで協力。この部門はノミネートが3作品で、ライバルが2作であることも考えると、辻が優位なのは間違いない。
予想通りの結果か、サプライズが起こるのか。3月5日（現地時間の4日）に行われる第90回アカデミー賞授賞式を、全世界が注目している。
文／斉藤博昭
『シェイプ・オブ・ウォーター』
2018年3月1日（木）公開
配給：20世紀フォックス映画
© 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation
『スリー・ビルボード』
公開中
配給：20世紀フォックス映画
© 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation
『ウィンストン・チャーチル／ヒトラーから世界を救った男』
2018年3月30日（金）公開
配給：ビターズ・エンド／パルコ
© 2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.
『レディ・バード』
2018年6月公開
配給：東宝東和
© Merie Wallace, courtesy of A24
