Feb 22, 2018 column

今年のオスカーで栄冠に輝くのは?!会員と傾向、前哨戦の結果などから第90回アカデミー賞を徹底解説

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『シェイプ・オブ・ウォーター』(2018年3月1日公開) © 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

いよいよ間近に迫ってきた、第90回アカデミー賞授賞式。今年はどんな作品、そしてどの俳優が栄光を掴むのかに注目が集まっている。そもそもアカデミー賞とは、ハリウッドで映画産業に関わる人々が同業者を称える賞である。投票を行うアカデミー会員は、どのような基準で作品を評価するのか?そして前哨戦といわれる賞の結果がどんな影響を与えるのか?様々な要因から、今年のアカデミー賞の行方を予想してみよう。

 

映画人による祭典であるアカデミー賞。“多様性”にシフトしつつある会員と、受賞作の傾向

 

米国アカデミー賞の最大の特徴は、映画人による映画人のための祭典という点だ。他の映画賞や映画祭の多くが、特定の審査員や、批評家、観客などの投票や審議で賞を決定するのとは異なり、アカデミー賞は、ハリウッドで活躍し、“映画芸術科学アカデミー(A.M.P.A.S.)”の会員になった人たちの投票で決まるからだ。この会員に選ばれるには、アカデミー賞での受賞やノミネートなど多くの実績が加味されるのだが、基本的には永久会員なので、新しい会員を増やさないと高齢化が進むことになる。

この構造が問題視されたのは、A.M.P.A.S.についての調査が報道された2012年だった。その時点で会員の94%が白人で、77%が男性、80%以上が50歳以上だったからだ。要するに“年齢の高い白人男性”が好む作品が、賞に近づくと言っていい。過去10年の作品賞を振り返っても、社会派作品(『スポットライト 世紀のスクープ』『それでも夜は明ける』)や、ハリウッド黄金期へのオマージュ(『アーティスト』)などに、その嗜好が表れている。賞レースの前哨戦の結果を受け継ぎ、そこにアカデミー会員の好みやプライド、同業者への賛辞が絡むのだろう。単に“ジイさん好み”ではなく、斬新なアプローチの作品(『スラムドッグ$ミリオネア』、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』、『ムーンライト』など)も高く評価されている。

ここ数年、アカデミーは会員を増加させており、若い世代、女性、非白人層を積極的に招いている。2017年には新会員候補として774人をリストアップ。そこには真田広之、菊池凛子、三池崇史監督ら日本人、エル・ファニングら若手スターも含まれ、774人中、39%が女性で、30%が有色人種とのこと。現代の風潮に合わせ、会員の“多様性”で賞の行方を決める傾向にシフトしつつある。

映画を送り出すスタジオ側は、少しでも会員たちの記憶に残りやすいように、前年の11~12月に賞を狙う作品を公開する。昨年末は『スター・ウォーズ』の新作も公開されたが、賞狙いの作品はエンタメ大作とヒットを競う必要も少なく、その影響も考えなくてもよい。昨年、トランプ政権への批判も込められて、人種や性的指向の多様性を描いた『ムーンライト』が作品賞を受賞したように、そのときどきの社会情勢の方が、投票者の心理を左右するようだ。

 

『スリー・ビルボード』(2018年2月1日公開) © 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

 

トロント観客賞、ゴールデン・グローブ賞、各組合賞…オスカーをうらなう上で重要な前哨戦

 

前述したように、アカデミー会員の投票の参考になるのは、前哨戦として位置づけられる他の賞の行方である。最も影響を与えるのが、毎年1月前半に行われるゴールデン・グローブ賞なのは、映画ファンならご存知の通り。これはロサンゼルス在住の外国人映画記者が選ぶ賞で、アカデミー賞とは投票者が重ならない。業界“外”の評価という点が参考にされるわけだ。ゴールデン・グローブ賞は映画の作品賞がドラマ部門とミュージカル/コメディ部門に分かれている。そのどちらかで作品賞を受賞し、アカデミー賞でも作品賞を受賞する確率は、過去10年で5回と、意外と重なっていない。作品賞は大逆転が起こっているのだ。演技賞はゴールデン・グローブ賞とアカデミー賞が一致する確率が高い。

そのゴールデン・グローブ賞のさらに前哨戦として近年、注目されているのが、9月のトロント国際映画祭。賞レースに絡みそうな作品がお披露目されるケースが多く、ここで観客賞を受賞した作品が、アカデミー賞作品賞に至ったのが、過去10年で3回。驚くのは、トロントの観客賞受賞作がアカデミー賞作品賞にノミネートされるケースで、これは過去10年で8作という高確率。昨年、惜しくも作品賞を逃した『ラ・ラ・ランド』もトロントの観客賞受賞作品だ。

さらに重要なのが、それぞれの協会が決定する賞だ。全米映画俳優組合賞(SAG)や、全米監督協会賞(DGA)、全米製作者組合賞(PGA)などは、同業者の投票で決まる。つまりアカデミー会員と投票者が多く重なるのである。ゴールデン・グローブ賞の後に次々と発表されるこれらの賞は、アカデミー賞と同じ結果になるケースが多い。ちなみに今年の結果は、PGAの映画部門が『シェイプ・オブ・ウォーター』で、DGAが同作のギレルモ・デル・トロ。また、アカデミー賞作品賞に近づくとされるSAGのキャスト賞は『スリー・ビルボード』が受賞している。そしてSAGの映画部門の各演技賞は、主演男優賞が『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』のゲイリー・オールドマン、主演女優賞が『スリー・ビルボード』のフランシス・マクドーマンド、助演男優賞が『スリー・ビルボード』のサム・ロックウェル、助演女優賞が『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』のアリソン・ジャネイ。これはゴールデン・グローブ賞とまったく同じである(主演賞はゴールデン・グローブのドラマ部門)。

 

『シェイプ・オブ・ウォーター』(2018年3月1日公開) © 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

 

さかのぼってトロントに目を向けると、観客賞が『スリー・ビルボード』。しかし、そのトロントの直前のヴェネチア国際映画祭で『シェイプ・オブ・ウォーター』が金獅子賞(グランプリ)を受賞しており、“2強”の状態でここまでの賞レースを牽引している。