前哨戦でもセクハラ問題に抗議。今年は例年以上に社会的な授賞式になる?受賞作への影響は?
そのセクハラ問題は、今年のアカデミー賞授賞式の大きなトピックになることだろう。昨年、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』で主演男優賞を受賞したケイシー・アフレックは、2010年に2人の女性からセクハラで訴えられた過去があった。最終的に示談となったものの、この事件がアカデミー会員の投票に影響するかも、と言われていた。結果は受賞となったのだが、壇上で彼にオスカー像を渡したブリー・ラーソンは祝福の抱擁と拍手を拒否。抗議の姿勢をあらわにした。これがもし今年だったら、ケイシー・アフレックの受賞はなかっただろう。
そもそもセクハラ問題がここまで拡大したのは、大物プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインの暴露記事がきっかけだった。そこから芋づる式に次々と過去のセクハラ被害が表面化。ケヴィン・スペイシーらトップスターもセクハラの加害者であることが明らかになった。被害者たちが訴える「#Me Too」は、映画界の枠を超えて社会全体に広がった。ワインスタインは毎年のようにアカデミー賞に絡む作品を送り出してきたので、ハリウッドの衝撃は大きい。前哨戦となるゴールデン・グローブ賞授賞式では、ほとんどの女性たちが素肌を過剰に出さない黒のドレスで出席。受賞者のひとり、オプラ・ウィンフリーがセクハラ被害を公言した女性たちを賞讃するスピーチを行った。全米映画俳優組合賞(SAG)の授賞式も、プレゼンターを全員女性が務めるなど、セクハラ抗議を後押し。
この流れがアカデミー賞授賞式まで続くのは確実であり、通常なら前年の受賞者がプレゼンターで登壇するのだが、前述のケイシー・アフレックはすでに出席辞退を表明している。昨年に続いてホストを務めるジミー・キンメルは、セクハラ問題を授賞式のあちこちに仕込んでくるはず。トランプ批判にも衰えは見られない現状なので、例年になく政治的・社会的発言が多く飛び出すのではないか。
昨年、『ラ・ラ・ランド』が優勢と言われていた作品賞が、最終的に『ムーンライト』にもたらされ、その前年(第88回)は、混戦だった作品賞を、神父による性的虐待を告発した『スポットライト 世紀のスクープ』が制するなど、毎年ではないが、社会派作品や何かを告発する映画が優位に立つのがアカデミー賞。『アバター』が有利と予想された2010年(第82回)、イラク戦争の実態をリアルに描いた『ハート・ロッカー』が作品賞を受賞したのが、この傾向を端的に表した好例だ。こうして社会派作品が栄誉に輝くのは、アカデミー会員の投票によって賞が決まることと無縁ではない。同じ業界人として、作品の善し悪しを判断するというより、その時代のムードを取り込んだ映画を高く評価したくなるのではないか? アカデミー賞作品賞が、社会を映す鏡として後世に語り継がれるために…。
今年の作品賞候補も、多かれ少なかれ、社会問題をテーマとしてはらんでいる。報道の自由を訴える『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』などは、その典型的な例だろう。セクハラ問題や政権批判、多くの差別問題など、“いま訴えたい”ことが、どのくらい受賞に関わってくるのか。ちなみに“白すぎるオスカー”に関しては、今年、演技賞候補20人のうち、黒人は4人。アジア系はゼロである。
スピーチはもちろん、3月4日(現地時間)の授賞式の結果を楽しみにしてほしい。
文/斉藤博昭
『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』
2018年3月30日(金)公開
配給:東宝東和
©Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.