1月期のドラマがすべて終了した時点で印象に残ったことは、人気の医療ものが5作もあったわりに、結果的に高い人気を獲得したのは、ミステリーものの日曜劇場「テセウスの船」(TBS系)と、恋愛もの「恋は続くよどこまでも」(以下、「恋つづ」TBS系)であったことだろう。いずれもTBSのドラマで、回を追うごとに人気が上がっていった。
主人公の恋する相手を演じた佐藤健による、ヒロイン扱いの仕草がキュンキュンすると、人気爆発した「恋つづ」は、じつは、5作の医療ものの1作(ほかに「病院の治し方~ドクター有原の挑戦~」〈テレビ東京〉、「病院で念仏を唱えないでください」〈TBS〉、「アライブ」〈フジテレビ〉、「トップナイフ」〈日本テレビ〉) ではあったのだが、あくまで病院は舞台であって、そこで働く新人看護士(上白石萌音)と憧れの医師(佐藤健)とのラブストーリー。終盤は仕事そっちのけで恋に夢中なヒロインに対するスタンスにツッコミも多く、ラブコメみたいな雰囲気もあった。ただそれもまたおもしろさのひとつといっていいだろう。
医療ものと刑事ものがどれだけ人気と言っても、あまりにたくさんあると食傷気味で、病院を舞台にしたラブストーリーという新機軸が喜ばれたのかもしれない。看護師と医者がたびたび、街で緊急事態に巻き込まれ、一緒に患者を救うという流れもときめきのシチュエーションとしてエンターテインメントになっていた。無論、生命の大切さはおろそかにしてはいない。
医療ものと並ぶ人気ジャンルのもうひとつに刑事ものーーすなわち「犯人探し」があるわけだが、犯罪を追うのが刑事ではなく、「テセウスの船」のような、一般人の主人公(竹内涼真)が、警察官である父(鈴木亮平)と共に、自分たち父子に関わる事件を自らの手で暴いていくという内容が共感を生んだのではないだろうか。さらには、主人公は未来から過去へとタイムスリップするという趣向も楽しく見ることができた。
医療、刑事ものというと、医者や警察官や刑事という選ばれた人間が主人公として、庶民に代わって陰謀に立ち向かうという爽快感を与えてくれるものだが、「テセウス〜」の主人公は、父の犯した罪のせいで日陰を歩んできた身であり、その罪が無実とわかってそれを証明するべく奮闘する。「恋つづ」は、佐藤健演じる医者はエリートではあるが、彼に心ひかれる主人公は、まだ何者でもない新米看護士で、仕事もがんばりながらも、恋を諦めないというか、恋を大事にするのである。最近のドラマは、恋より仕事を優先する内容が支持されていたから新鮮に映った。
これまでと違うという意味では、スクープを追う週刊誌を舞台にしたお仕事ドラマ「知らなくていいコト」(日本テレビ系)も意外性があった。主人公(吉高由里子)の元カレを演じた柄本佑はこれまで性格俳優として認識されていたが、このドラマでは「イケメン」ポジションを担っていたのである。ヘアメイクを入念に、照明で瞳をキラリとさせ、二枚目アクションを振りまくと、たちまち女性が大騒ぎ。SNSを中心に柄本佑沼にハマる人が続出した。
もしや、これまでの主人公やイケメンの概念が崩れてきているのではないか。人気作家・野木亜紀子が脚本を手掛けた金曜の深夜ドラマ「コタキ兄弟と四苦八苦」(テレビ東京)も、バイプレーヤーブームの流れにあるもので、古舘寛治と滝藤賢一が演じる兄弟は定職につかずレンタル親父をやっている。「絶メシロード」(テレビ東京)は、自主製作映画「カメラを止めるな!」で一躍注目された濱津隆之が演じる主人公がふつうのサラリーマン。こうして見ると、佐藤健演じるエリート医師をのぞいて、全体的に地味めなのである。
純然たる1月期ドラマではないが、昨年の9月から3月まで放送していた朝ドラ「スカーレット」(NHK総合 月〜土あさ8時〜)の主人公(戸田恵梨香)は陶芸家だが、華々しく活躍していくわけではない。夫と離婚し、息子と死別しながら、幼少期から育った家に工房をつくって陶芸をしながらひとりで生きていく、ハードボイルドの女みたいな風情があった。衣裳もとても質素だった。1月から始まった大河ドラマ「麒麟がくる」(NHK総合 日よる8時〜)も戦国武将の人気者・織田信長(染谷将太)を討った明智光秀(長谷川博己)が主人公。長い歴史を誇る大河の主役になったことのない人物で、最近はいろんな説が出ているとはいえ、謀反人の印象が強い。
全体的に、キラキラしていると思われていない人に光が当たってきたという興味深い現象が起きていたのが1月期のドラマだったように思う。
しゅっとした大人の主人公が活躍する従来のスタイルを踏襲している「絶対零度~未然犯罪潜入捜査~」(フジテレビ 主演:沢村一樹)、「病院で念仏を唱えないでください」(主演:伊藤英明)、「アライブ」(主演:松下奈緒、木村佳乃)、「トップナイフ」(主演:天海祐希)などはどれも秀作ではあったが、それ以上でもそれ以下でもなく、「テセウスの船」と並ぶミステリーものだった「10の秘密」(フジテレビ系 主演:向井理、仲間由紀恵)も名優たちの心理戦が見応えがあり映像も凝っていたが、爆発的なヒットにはつながらなかった。
ほかに、「女子高生の無駄使い」(テレビ朝日系)や、「シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う。」(日本テレビ系)は、医療ものでもミステリーでも恋愛ものでもなく、高嶋菜七や町田啓太(「女子高生の」)横浜流星や清野菜名((「シロクロパンダ」)など若手の俳優が活躍し、学生や若い視聴者が楽しめるバラエティー感覚にあふれたドラマになっていた。安定のジャンルばかりでなく、こういった若者が躍動する企画にも力を入れてほしい。
文・木俣冬