『寝ても覚めても』のヒロインで存在感を放った唐田えりか、そして『ONODA 一万夜を越えて』で世界的に評価された遠藤雄弥。この2人が、探り合いながら刺激し合いながら恋が生まれる瞬間を描いた作品が竹馬靖具監督の新作『の方へ、流れる』です。
雑貨店で店番をする女性と店の客である恋人を待つ男性。あるきっかけで2人は外へと歩き出し、街中を歩きながら互いの考えを語らう中で、恋の駆け引きともいえるやり取りが交わされていく会話劇は、嘘と本音が混じりあい、観る者に得も言われぬ余韻を残します。
この感覚を2人は演じながらどう読み取ったのか、互いについての考えを映画さながら2人に伺います。
―― 脚本を読まれた時の感想を教えて下さい。
唐田 “どのような感じで進んでいくんだろうか?”一番最初に脚本を読んだ時は正直よく分からなくて、想像が出来なかったんです。脚本を読んだ後に竹馬(靖具)監督の前作を観て“こういう世界観であの作品は描かれるんだ”とイメージすることが出来ました。
それと同時に“早く竹馬監督の作品に出演したい。絶対にオーディションに受かりたい”と強く思って、オーディションに挑みました。竹馬監督の作品の中で脚本に書かれていたあの台詞があったら凄く面白い方にいくのではないか?と思って楽しみになりました。
遠藤 唐田さんが仰る通り、ある種の難しさみたいなものに惹かれました。役者は演じることを想定して脚本を読むのですが“これは難しい”と正直、思いました。感情とは乖離した話をしたりするので、そこをどんなふうに演じればいいのかを初見で読んだ時は感じていました。
リハーサルでは唐田さんとずっと本読みをしていました。最初は「感情を入れずに読んで下さい」と言う監督の演出方法に戸惑いを感じました。それと同時に、今まで経験したことがなかったアプローチだったので新鮮でしたし、撮影が始まれば“なるほど”と感じていました。そして出来上がりを観て、その演出が凄くはまっていたことに気づき、それが作品の色であることも理解しました。
―― 2人の会話と時間の流れが軸となる作品でしたが、撮影はなるべく時間軸通りだったのですか。
遠藤 いいえ、そうでもなかったんです。
―― 言っている事と本音はどうやら違いそうだ、と見ているうちに気づかされるのも面白さでした。見知らぬ2人が時間を共有して探り合っていく感じがミステリアスで、この映画を観た時、『ビフォア・サンセット』(公開:2005年)を思い出しました。役者さん達にとって会話劇は、特に難しいと感じています。2人はどのように関係を構築していったのですか。
唐田 現場ではお互いに喋らないようにしていました。
遠藤 そうですね、僕は凄く意識して喋らないようにしていました。
唐田 私は遠藤さんがそうなんだろうと思って、意識していました(笑)。
遠藤 初めてその日に出会った男性と女性という役なので、近くなり過ぎないようにした方が豊かになると勝手に思っていて、それに唐田さんが合わせて下さったので良かったです(笑)。 “下手したら嫌われてしまうのではないか”とちょっと不安になりながらもやっていたんです。本当は凄く喋りたかったんですが、あまり喋らない方がよりドキドキすると思っていたので。
―― 物語の繋がりもそうですが、この撮影では感情を保つ事がより大変だったのではないかと想像してしまいます。
唐田 いい緊張感がずっと現場に流れていたような気がします。