Apr 28, 2022 interview

小林聡美インタビュー 女性の生き様に“今”を重ねた『ツユクサ』

A A
SHARE

『at HOME アットホーム』の安倍照雄のオリジナル脚本を、『愛を乞うひと』の平山秀幸監督が映像化しようと10年以上温めてきた企画が、『かもめ食堂』『めがね』などの小林聡美を主演に迎えたことで実現。本作『ツユクサ』は、哀しみを背負ったひとりの女性が、草笛をきっかけに男性と出会い、小さな幸せを感じ始める希望の物語でした。恋を予感させる相手役には松重豊が扮し、彼女の仕事仲間には平岩紙、江口のりこという演劇ファンも歓喜するキャスティング。喜びも哀しみも経験した大人達にエールを贈る『ツユクサ』は4月29日公開です。今回は、主演の小林聡美さんに「映画作りと豊かな生き方」についてお話を伺います。

―― まず、映画『ツユクサ』をご覧になって“どんな人に届けられたら”と思いましたか?

出来れば色々な年齢層の方に観て頂きたいと思っています。それでもやっぱり【芙美さん】の年齢層である40代~50代の方々ですかね。人生も色々と経験して、落ちついてきて“これからもこんな感じでいるのかな?”と思っている方には、“もしかしたら、この先ちょっと良いことが起こるかもしれない”と思ってもらえるかもしれません。

―― 大人の人達の背中を優しく押すような作品でしたが、平山秀幸監督からはどのような感じで企画のお話が出たのですか?

平山秀幸監督とは初めて『閉鎖病棟 -それぞれの朝-』(公開:2019年)でご一緒して、その際に世間話みたいな感じでこの作品の話を伺いました。これまでなかなか実現化しない企画だったようです。きっと他の役者さんと組んでやろうとしたことも何回かあったと思います。でも、運よく私のタイミングで映画化されたということでしょうか。

―― 今作の【芙美さん】も自分の内面を見つめながら生きている主人公でしたが、小林聡美さんの演じられる役は、ありのままの自分を客観的に見ているようなキャラクターが多いような気がします。だからこそ観客も映画を通して客観的に自分の人生をも見つめられるのではと思うのですが、ご自身ではどう思われていますか。

どうなんでしょう?でも、そういう役が多いということは、そういう風に私自身がしちゃっているのかもしれません。他の人が【芙美さん】を演じたら、もっと違う感じになるんでしょう。実は最初に頂いた台本に書かれていた女性の描き方が、今から10年くらい前の時代の雰囲気の部分もあったんです。

例えば「私、もう歳だし」みたいな台詞が台本に書かれていたりして、それって今の時代だとちょっと暑苦しく感じますよね。そういう台詞をそぎ落として今の台本になっていきました。10年前に撮影していたらまた違った物語になっていたかもしれませんけど、監督と相談しながら、今風の【芙美さん】になっていきました。初めの台本では松重豊さん演じる、好意を寄せる【篠田吾郎さん】に「私、もう歳なんですけど」と言ってみたりするんです。

―― 『OUT』(公開:2002年)もそうですが、平山監督は大人の女性達の生き様を描いた作品を撮られています。男性の監督が女性を主軸に撮るということは、作品を作る上でも探究することが多いと思うのですが、その部分でもお話しをされたのでしょうか?

気になるところがお互いにあれば、相談し合う感じでした。本読みの段階で台詞に関して「このぐらいの年齢の女性がこの台詞を言うのは不自然じゃない?」と聞いてくださったりして、台詞を整えていく作業がありました。「女性の台詞は僕はわからないから」なんておっしゃって(笑)。なので現場に入ってからは、台詞に関する問題はなかったです。

―― 物語の中心は松重さん演じる【篠田吾郎】とのラブストーリーになるか?と思いきや、私は女性3人【芙美、直子、妙子】の印象がとても強いんです。小林聡美さん、平岩紙さん、江口のりこさん、3人のとても伸びやかな演技をいつまでも観ていたいと思っていました。3人ではお話されたのですか。

実は何の話し合いもなかったです(笑)。打ち合わせせずに、それぞれが自由に伸び伸びと演じていたのが良かったんだと思います。「風が強いね」みたいな、そんなたわいもない話くらいです(笑)。というのも一緒の撮影自体が数日しかなかったので、じっくり話す時間もなかったんです。でもあまり語らずとも、3人でいる雰囲気はとても自然で良かった。だからこそ、3人で工場から外に出て砂っぽさの中で他愛のない話をしたり、海を眺めながらお弁当を食べる時間のリラックスした感じが作れたのだと思っています。