Mar 04, 2021 column

35:今後さらに“ゲーム”ビジネスが中心の時代になる

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業界のプロフェッショナルに、様々な視点でエンターテインメント分野の話を語っていただく本企画。日本のゲーム・エンターテインメント黎明期から活躍し現在も最前線で業務に携わる、エンタメ・ストラテジストの内海州史が、ゲーム業界を中心とする、デジタル・エンターテインメント業界の歴史や業界最新トレンドの話を語ります。

34「MBA の経験とエンタメビジネスの繋がり」はこちら

ゲーム業界を中心にエンターテインメント業界に長い間いますが、今ほどゲームビジネスの影響力が高まった時代は無いと思います。

ある意味、日本では今よりも熱狂的に特定のゲームが受け入れられていたこともありました。かつて、サラリーマンや学生が100円玉を積み上げて喫茶店やゲームセンターで『スペースインベーダー』に熱中し、『ムシキング』のようにゲームセンターから子供達の流行が爆発するといった社会的現象がありました。

ゲームの発売日に、お目当の商品を買いたいお客さんが、販売店に押し寄せて長い列を作るという昔よくあった光景は今ではほとんど見ることができません。当時のゲームは新しい遊びや体験に対する熱狂の対象であり、ゲームセンターに行ったり、ゲーム機を持っていなければプレイすることができず、ある意味、感度の高い子供や若者を中心とした一部の人の遊びだったと言えます。

それが今では、携帯電話やパソコンの普及もあり、もはやマニアや子供のみが遊ぶものではなくなりました。老若男女、音楽や映画のように多くの人が普通にたしなむことが当たり前の時代になっています。さらに、ゲームのプレイ映像がYouTubeなどを通じて多くの視聴者の共感をよび、ゲームをテーマとした映画が出来たり、ゲーム内のバーチャルな世界の中で様々な人と対戦したり協力したり生活したり、有名DJがライブ演奏をしたりと大きな広がりを持つようになりました。

ゲームが単なるおもちゃの延長であった遊びの枠から、コンテンツ、サービス、メディア、コミュニティの役割まで持ち始め、エンタメビジネスを超えた経済的なエコシステムの重要な要素になってきているのです。その市場規模は音楽や映画を大きく凌駕し、GAFA+Mもこのエコシステムの大きさに敏感に反応し、市場に参入して投資も行ってきたことから、ゲームの地位や影響力はさらに押し上げられて、動画やクラウドなどの関連エコシステムを含めて極めて大きな影響を持つようになってきているのです。

現在私はセガに在籍していますが、映画『ソニック』のヒットの恩恵もあり、ハリウッドの映画や映像関係者と話す機会が最近かなり増えています。30代から50代のプロデューサーやディレクターなど決定権のある地位の人のゲームに対するリスペクトはとても高く、彼らとは仕事がすごくやりやすくなっています。プレイステーションを立ち上げたころに、ゲーム作品の映画化や映像化の話を持っていくも、当時のハリウッドの城壁は高く、なかなか乗り越えることができませんでした。

ところが、我々が昔から提供してきたコンテンツやプロジェクトは、映画業界の重鎮たちにとって子供の頃から親しんでいたり、夢中になっていたものなので、ある意味彼らの憧れや尊敬の対象になっているのです。

また、ハリウッドのビジネスマンもゲーム会社がGAFA+Mと近いということも知っており、ビジネス的な皮算用もあって近づきたいと思っているのです。ゲーム作品をテーマにした、またはゲーム作品のIPがアニメや映画や動画番組に今後続々と出てくるのではないでしょうか。音楽に関しても、ゲーム屋として昔は楽曲の提供を頼み込んでお願いしていたのが、最近では楽曲提供の積極的なピッチを受ける立場になってきているのですから時代の変化を痛感します。

2021年3月現在、私はセガのChief Strategy Officer (CSO)を務めているのですが、4月より副社長に就任することになりました。日本のコンテンツをグローバルに展開していく動きをさらに加速させる役割をいただいたと思っています。ゲームのエコシステムの成長を考慮して、開発、制作、運営部門を、あえてデジタルではなくIPではなく、ゲームコンテンツ&サービスと呼ぶことにしました。セガのコアの強さ、IPや開発力を生かしながらも、環境の変化を捉えながら自らも進化していくことを目指し、世界のお客様にエンタテインメントの場を提供していきたいと思っています。

これまで、長年携わってきたゲーム事業を中心としたエンターテインメント事業について、私の経験を通じた過去の出来事に関する考察をコラムとして書かせていただきました。

今後は、少し未来を見つめたコラムに取組みたいと思い、少し考える時間を置きたいと思っています。未来の業界、特にゲーム業界のエコシステムの進化などに関するコラム、もしくは対談にしていきたいと思っています。また、お会いしましょう。

Entertainment Business Strategist
エンタメ・ストラテジスト
内海州史

内海州史

1986年ソニー㈱入社、本社の総合企画室に配属。その後、社内留学制度でWhartonでMBA取得。ソニー・コンピューエンタテインメントの設立、プレイステーションのアメリカビジネスの立上げに深く携わる。その後、セガ取締役シニア・バイス・プレジデントに就任し、ドリームキャストの立上げを経験。ディズニーのゲーム部門のアジア・日本代表時に日本発のディズニーゲーム作品『キングダムハーツ』の大ヒットに深くかかわる。2003年にクリエイターの水口哲也氏と共にキューエンタテインメントを設立し、CEO就任。ビデオゲーム、PCやモバイルゲームにて多くのヒットを輩出。2013年ワーナーミュージックジャパンの代表取締役社長に就任し、デジタル化と音楽事務所設立を推進。2016年にサイバード社の代表取締役社長に就任。現在株式会社セガの取締役CSO、ジャパンアジアスタジオ統括本部本部長。