前作から35年ぶりに製作された『ブレードランナー 2049』には、SF映画の名作を受け継ぐ意味で過剰な期待も高まったが、その仕上がりは期待を軽々と超えるものだった。そもそもなぜ、1982年の『ブレードランナー』は多くの人の心を掴んだのか。そして今回の続編は、その世界観をどうアップデートさせたのか。SFの名作の最新版が次々と公開される2017年。『ブレードランナー』の鮮やかな復活も偶然ではないのかもしれない。
公開当時は“惨敗”だった前作は、後のSF映画に影響を与えるカルト作に
今から3年前の2014年、情報誌「Time Out」のロンドン版が、「SF映画ベスト100」を選出した。選者はアルフォンソ・キュアロン、ジョン・カーペンター、ギレルモ・デル・トロ、エドガー・ライトら映画監督や、作家のスティーヴン・キング、科学者や評論家も含めた錚々たる約150名のメンバー。そのランキングで、1位の『2001年宇宙の旅』(68)に次ぐ2位になったのが『ブレードランナー』だった。
1982年、リドリー・スコット監督が『エイリアン』(79)を成功させた後のプロジェクトとして取り組んだのが『ブレードランナー』だ。その後のSF映画の歴史を変えることになった一作だが、公開当時は多くの観客に受け入れられたわけではない。同じ時期に『E.T.』(82)などの強力なライバル作品が公開され、はっきり言って興行的には“不入り”の惨敗であった。SFアクション娯楽作かと思わせる予告編と、本編のギャップも大きかったため、当時の観客を戸惑わせたこともヒットしなかった要因のひとつ。このあたりは、リドリー・スコットの目指したものを、映画会社側の意向で大きく改変(主人公のデッカードのナレーションを多用して説明過多になっていたり、ロマンチックなラストにしたり……などなど)したことで、作品の方向性が曖昧になった部分がある。
そんな『ブレードランナー』が公開後、何年もかけてカルト的な人気を獲得。後に続く映画に影響を与え続けたことには、いくつかの理由が見出せる。
まずは未来風景のビジュアル。環境破壊の影響で地球上での人間の居住地域は限られ、宇宙への移住も進んでいる2019年。主人公の“ブレードランナー”デッカード(ハリソン・フォード)が生活する地球の都市は、酸性雨が降り、とことん暗い。そこにテクノロジーの進化による、空飛ぶ車“スピナー”や、立体的なネオンサインが混在し、漢字の表記も多い無国籍なムードが漂っている。シド・ミードによるプロダクションデザインは、時代を経た現在も古臭さを感じさせない。ディストピアも連想させる未来都市の風景は、今年公開された『ゴースト・イン・ザ・シェル』(17)に至るまで、多くのSF映画やコミックなどに大なり小なり影響を与えてきた。
そしてもう一点は、人造人間=レプリカントの意味だ。外見だけでは人間と区別がつきにくいレプリカントを発見し、処分するブレードランナー。しかし、レプリカントにも意志があり、彼らは自由に生きることを望んでいる。そこで浮き上がるのは、人間とは何か? 人間らしさとは何か? という疑問。そして奴隷のように働くレプリカントを作りながら、自分と違う何かを排除しようとする人間の矛盾。哲学的問題を問う姿勢は、それまでのSF作品にもあったが、『ブレードランナー』は強烈なインパクトでこのテーマを届けてくれた。
公開当時、リドリー・スコットにとって不本意な仕上がりだった『ブレードランナー』は、1992年のディレクターズ・カット版、2007年のフィイナル・カット版が作られ、監督の理想の作品へと変貌してきた。複数のバージョンが世に出たことも、映画ファンの関心を高める結果になったと言える。