松岡茉優インタビュー 私を人に委ねた、その先に 映画『男ともだち』
直木賞受賞作家・千早茜のロングセラー小説「男ともだち」を、主演に松岡茉優、共演に成田凌を迎え実写化した、映画『男ともだち』が11月6日に公開される。
京都に暮らすイラストレーター、神名(かんな)は、30歳を目前に、人生に静かな行き詰まりを感じていた。生活できる仕事もあり、自分を支えてくれる恋人と同棲しており、すべては順調に見えるが、実は描きたいものを見失い、惰性や不毛な恋愛に逃げる日々を送っている。
そんなある日、出会った頃からなぜか自分のことを深く理解してくれる大学時代の先輩・ハセオと7年ぶりに再会を果たす。あの頃も今も変わらない温度で接してくれる”男ともだち”と過ごす、3つの夜が神名の人生を大きく動かしていく。 主人公・神名を演じる松岡茉優は、映画『万引き家族』やNetflixシリーズ「ダウンタイム」など、確かな存在感を放ってきた女優だ。表現者として、彼女は本作をどのように捉えているのか。
新しい役柄への向き合い方
——主人公・神名と同じ世代が醸し出している雰囲気や、成田凌さん演じるハセオへの絶妙な距離の取り方など、神名の立ち居振る舞いがとても自然で素晴らしかったです。役作りの際に、誰かを想定したり、観察されたりしたんですか?
私は役をいただくと、誰よりもその子を理解していたいし、そばにいたいと常々思っているのですが、今回撮影が始まって、私よりも三島監督のほうが神名のそばにいると感じました。三島監督は2020年頃からこの作品と向き合われていて、神名のことを深く理解していたし、愛していました。私はこれまでのお仕事で、監督のリクエストがその役としては難しいんじゃないかなと感じたときは、役の代弁者として、お伝えしたり話し合ったりしてきたのですが、今回はいつも、私が三島さんに聞いていました。こういうとき神名はこうしますか?とか、こう感じるので合ってますか?とか。
そこに寂しさとか不安はなくて、千早さんをはじめ、みんなで神名を愛しているような時間でした。

「0を1にする」仕事への敬意
——松岡さんは絵本が好きだと伺っています。今作ではイラストレーターという役柄でしたが、ご自身は、他の分野のクリエイターを、どんな存在だと位置付けていますか?
表現と言うお仕事においては、近しいのかもしれないけれど、イラストレーターさんは「0を1にする」お仕事だと認識しています。
今回絵画提供と監修を務められた田中千智先生のアトリエにお勉強のためみんなで伺ったのですが、その時やはり強く思いました。
真っ白な紙が、先生が筆を滑らせることに何かが生まれていく。その感覚があったのです。作品の中で最後に神名が描く1枚の絵があるのですが、映画を通して神名を見つめてきてくださった観客の皆様にとって、その絵こそがゴールなのではと感じました。何もないところから作り上げると言うお仕事を本当に尊敬しています。


——田中千智さんのアトリエがある福岡の能古島に赴いて、絵の練習をされたと伺いました。クリエイターへのリスペクトがあるというお話でしたが、アトリエに伺ったことで、演技に反映されたことはありますか?
すごく気持ちの良い場所でした。先生が普段まさに作品を作り上げられている。アトリエに伺った時、異質というか、今まで私が触れてこなかった空間だなと思いました。
私にとって現場とは、人がいるものだし、機材があるものだし、日によって場所も違います。でも先生にとっては1人で、自分の道具と、同じ環境で生み出し続けてらっしゃる。その空気を吸い込んだのだと思います。
お勉強しに伺わせていただいて、本当によかったし、大切な場所を貸してくださった先生にとても感謝しています。 何か生き物が住んでいるような場所でした。
「30歳」という区切りの重さ
——『男ともだち』という映画は、人生のタイミングで見え方が変わる作品だと感じています。松岡さんは、今ご自身の年齢で、この作品に関わり、本作をご覧になって、どんな感想をお持ちになりましたか?
「30歳までに◯◯」、というのはどこから生まれたのだろうと考えます。私にも私の周りにもその感覚はあったと認識しているし、先日10代の方とお話ししているときに、まさに話題に出て。その方も30歳までにやりたいことがあったのです。
これは私の世代だからということではなくて、広い範囲である価値観なのだなと思います。
30歳を目前に控えた神名は、名前のつかない何か、焦りのようなものを感じている。自分は何者かになったのだろうか?あの時なりたかった自分なのだろうか?と。
作品の中で、神名がもがいた末に描く絵を、ぜひ見つめていただきたいです。





人に委ねることは厳しくも温かい
——神名の絵を評価してくれていた、池畑慎之介さん演じるキュレーターの楢崎が勤める美術館でのラストシーンが、とても綺麗で印象に残っています。解釈は観客に委ねられていると思いますが、松岡さんが、ラストシーンの神名に思うことは、どんなことですか?
やはり、楢崎さんの存在は神名にとって試練であり、救いであったと思います。
同じ言葉を周りに言われたとしても、この人でないといけないということがあると思うんです。
神名にとって、それは楢崎さんだった。厳しくも、神名が前に進むための言葉をくれて、神名はその試練を乗り越えました。私自身、これから彼女が生み出す絵がとても楽しみに思うし、彼女が向き合いきったことは、彼女のこれからの人生において、かけがえのない選択だったと思います。ぜひ劇場で神名の強さを受け取っていただけたら幸いです。
取材・文 / 小倉靖史
撮影 / 岡本英理


映画『男ともだち』
京都に暮らす29歳のイラストレーター・神名。仕事もプライベートも順調に見えるが、実は描きたいものを見失い、惰性と不毛な恋愛に逃げる日々を送っている。ある日突然、神名の元に大学時代の先輩・ハセオから電話が入り7年ぶりに再会、あの頃も今も変わらない二人だけの温度で接してくれる“男ともだち”と過ごす3つの夜が、彼女の人生を大きく動かしていく。
監督:三島有紀子
原作:千早茜「男ともだち」(文春文庫)
出演:松岡茉優、成田凌
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2026『男ともだち』製作委員会
2026年11月6日(金) 新宿ピカデリーほか全国公開
公式サイト otokotomodachi