福本莉子インタビュー 映画『時給三〇〇円の死神』無償の愛は在るのか 人間の生々しさを描くファンタジー
人生の希望を失った大学生・佐倉真司。彼は、不思議な空気をまとった同級生・花森雪希からバイトをしないか?と持ちかけられる。それは時給300円の死神というアルバイトだった。――この世で心残りを抱えた者たちに与えられる「人生のロスタイム」。死神の仕事はそのロスタイム中に死者たちの後悔を解消すること。しかし、その時間の中で起きた出来事は、半年間の契約期間を終えると、すべて消えてしまうという残酷なルールが存在する。
10月2日(金)公開の映画『時給三〇〇円の死神』は、単なるファンタジーではなく、現代人が抱える心の課題や家族愛という普遍的なテーマを描いたヒューマンドラマだ。後悔や未練を抱えたまま生きていく人々がいる。そんな人々にどう向き合うか。本作に出演している福本莉子さんに、本作の魅力をはじめ、人生に対する姿勢、そして家族観について伺った。
描かれていない心情をつかむ
——台本を読んだときのお気持ちをお伺いできますか?
最初に「死神役です」と言われて驚いたのを覚えています。タイトルがすごく印象的だったので、『時給三〇〇円の死神』って何なんだろう?っていうところから入りました。
本作はファンタジー作品ですが、人間の葛藤や悩みといったものが包み隠さず描かれています。家族が大きなテーマなのですが、母親からの目線、娘からの目線と、いろんな立場の人が、それぞれ様々な悩みや思いを抱えながらも一生懸命に生きている姿があり、とてもリアリティがあります。ファンタジーなのに、非常に現実に寄り添った作品だと感じました。
最後に、思わず息をのむような展開も待っています。このパンチのあるタイトルに負けないぐらい、心を揺さぶられる本当に素晴らしい作品です。

——演じられた花森雪希の役作りについてお伺いします。作品冒頭から彼女は、どこか掴みどころがないキャラクターという印象を受けました。お芝居をする上で大切にしたことはありますか?
花森さんは、とても明るく振る舞う一方、掴みどころがなく、それでいて人を引っ張っていく力を持っているキャラクターです。
その「明るさの源」が何なのかと考えたとき、彼女が抱えている想いが根底にあると思うんです。この作品の軸になる部分なので、まずその心情をしっかりと自分の中で深掘りしました。
きっと、明るくしていないと押し潰されそうだったんだと思います。「自分は不幸じゃない」「私、幸せだよ」という反骨心のようなものから来ているのかなと感じましたね。台本に描かれていない部分でも、そんな彼女から見える世界はどういうものだろう?と考えたことが、役作りのベースになりました。
掴みどころがないキャラクターということで、「現場で使える小道具はないかな?」と探してみたり、「空間の中で遊べないかな?」ということは、意識的にしていましたね。例えば、大学内で手帳を探すシーンがありますが、撮影現場にピアノがあったので、いきなり『ねこふんじゃった』を弾いたら面白いかなと思ってアドリブで動きました(笑)。そういう突拍子もない動きを常にできないかな、と試しながら演じていました。

今を見つめる姿勢と会話のテンポ感
——佐倉真司を演じられた西畑大吾(なにわ男子)さんの印象を教えてください。
なにわ男子さんは関西色が強いグループなので、「コテコテの関西人なんだろうな」というのが最初の印象でした。クランクインが大学のシーンだったのですが、西畑さんも渋谷凪咲さんも私も関西出身なので、三人で集まると関西弁で話してしまうことが多くて(笑)。
役柄自体は標準語なのですが、今回、花森さんと佐倉くんの会話のテンポが結構大事なんです。コミカルなシーンもあるので、そういう場面ではやはり「関西の血」を感じました。アドリブのシーンも含めて、何を言っても応えてくれるような安心感がありました。
映像作品にもたくさん出演されていて、俳優としても活躍されているので、私のお芝居に対してもとても紳士的に受け止めていただきました。
——本作では、後悔や未練を残した死者たちに人生のロスタイムが与えられています。福本さんは、後悔していることはありますか?
もちろん後悔して落ち込むこともありますが、そういうことは忘れるように努力します。「失敗は成功のもと」という言葉があるように、失敗があるからこそ次の成功につながると信じて日々を過ごしています。
そして、この作品にも共通することだと思うのですが、「今」にしっかり目を向けることの大切さがあると、常に感じています。


お母さんの高みを目指して
——福本さんは忘れたくない、忘れられたくない出来事や思い出はありますか?
今、大事にしているのは「家族との時間」です。私は大阪から上京して暮らしていて、昔は毎日家族に会っていたけれど、今は頻繁には会えないので、「あと、どのくらい家族と会えるんだろう?」と考えたときに、実質、そんなに時間はないのかもしれないと思って、たくさん思い出作りをしています。
家族が行きたい場所に連れて行ってあげたり、そこでの様子を写真に撮ったり、そういう何でもないことですが、「ちょっとした楽しい思い出」を全部忘れたくないなと思って残すようにしています。
友達もほとんど関西にいるので、しょっちゅう大阪に帰っていますね(笑)。お盆やお正月といったレベルというよりは、少し休みが取れたら帰ってしまいます。


——本作は家族が大きなテーマとおっしゃっていました。中でも、母性や無償の愛というものが、作品の核となっているように感じています。最近、お母さんとはとはどんなやり取りをされていますか?
料理をしているときに、「やっぱり母の味を再現したいな」と思い、「あれ作ってみたんだけど、味が足りなくて何だと思う?」とよく電話で話しています。
私は母ほど料理のレパートリーもなければ、品数も多くは作れないので「料理の師匠」です(笑)。あと「掃除の師匠」でもあるんです。母は掃除が上手で、すごく効率がいいんですよ。母の高みを目指したいですね。
やはり母親というのは強く、どこか「生き抜く力」を感じます。今の時代は何でもネットで調べられるけれど、母親世代の方々は、自分が経験して得た生活の知恵がありますよね。自分でトライアンドエラーを繰り返してきたからこそ、その強みがあると思うので、学びも多いですし尊敬することばかりです。
——ご自分から母性を感じることはありますか?
同い年の友達が最近母親になったので、「この世代にも波が来たな」と思っています(笑)。中学・高校を一緒に過ごしてきた友達が母になるなんて、感慨深いです。その友達の子どもが生まれたら、きっと私にも母性が芽生えるのかもしれないですね。
人間同士だから救われることもある
——完成された映画をご覧になっての感想を教えてください。
誰もが変えられない過去を悔やんだり、誰かに傷つけられたりしながらも、懸命に生きて、その中で小さな希望を見つけながら前に進んでいく登場人物たちの姿に、とても勇気をもらいました。
人は人に傷つけられることもあれば、救われることもあります。だからこそ、人に対する感情は簡単な言葉では言い表せない。ただ悲しいとか嬉しいだけではない、「大好きなのに嫌い」のように、相反する感情を同時に抱くこともあると思います。
例えば、「母親が子どもに対して無償の愛を持てない」という話は、なかなか切り込んで描けないテーマだと思います。本作では、そういった誰もが心の奥に抱えうる、生々しく複雑な感情の深いところまでを丁寧に描いているからこそ、残酷でありながら、とても美しい作品だと感じました。「母親だから」「娘だから」という立場や関係性の枠を越えて、ひとりの人間として、それぞれの人生にフォーカスしている作品です。そういった枠を一度取り払って、ぜひ皆さんに観ていただきたいです。
そして何より、監督の演出が素晴らしく、映像そのものの美しさにも惹かれました。オープニングの映像は特に象徴的で、すべての雨粒が止まっている中で、素晴らしい音楽が流れます。その一瞬に「時給三〇〇円の死神の世界観」が詰まっていると感じました。
この映画が、少しでも日常の中にある小さな気づきや幸せを見つけるきっかけになれたら嬉しいです。
取材・文 / 小倉靖史
撮影 / 立松尚積
ヘアメイク / 伏屋陽子 スタイリスト / Lim Lean Lee


映画『時給三〇〇円の死神』
不祥事を起こした父親の逮捕、両親の離婚など不幸続きの人生に絶望していた大学生の佐倉真はある日、同級生の花森雪希に〈死神〉のアルバイトに誘われる。雇用期間は六カ月間、依頼内容は郵便受けに投函され、交通費はなし。そして、時給は…たったの三〇〇円。嘘みたいで理不尽なその仕事は、この世をさまよう死者の心残りに寄り添い、願いを果たす手伝いをし、あの世へ送り出すことだった。死神のバディとして花森とともに様々な死者たちとの出会いを通じて、佐倉の止まっていた人生は少しずつ動き始めたのだったが…。
監督:酒井麻衣
原作:藤まる「時給三〇〇円の死神」(双葉文庫)
出演:西畑大吾、福本莉子、渋谷凪咲、齋藤潤、泉谷星奈、佐津川愛美、山口馬木也、小澤征悦
製作幹事・配給:ギャガ/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
Ⓒ2026藤まる/双葉社・「時給三〇〇円の死神」製作委員会
2026年10月2日(金) TOHOシネマズ 日比谷 他 全国公開
公式サイト jikyu-300movie