『木挽町のあだ討ち』柄本佑インタビュー いま人々に求められている時代劇

映画化で生まれた原作にない主役

——本作『木挽町のあだ討ち』へ出演が決まった時のお気持ち、感想など教えてください。

僕はあまり小説を読む方ではないのですが、この原作は事前に読んでいました。本屋に行くのが好きなんですけど、”うちの親父、木挽町生まれだし”っていう理由で、この映画の原作を表紙買いして読んだんです。”面白いな、でも映像化は無理だな”と思っていた数年後にお話をいただいたので、”妙な縁があるな”と思いました。 少ない読書歴の中で、こういう縁があったのは、実は2回目です。「空白を満たしなさい」というNHKドラマも事前に原作を読んでいたんです。知り合いに勧められて読んだらすごく面白い。そして、後々ドラマ出演のお話が来た。そういう縁を感じると”自分がやるべき作品なのかな”と思ったりしますね。

——脚本では、原作にはない加瀬総一郎が主人公に据えられています。

証言者のモノローグが続く原作に対し、総一郎という人物を主役に置くアイデアは、さすが源監督だと思いました。ずっとカメラ目線で証言だけを撮るわけにいかないし、源監督のアイデアには驚きましたね。

——加瀬総一郎を演じるにあたって、大切にした点を教えていただけますか?

キャスト陣の頭に僕の名前は一応あるけど、やはり事件が主役で、そこに関わる人たちが主役なので、僕の存在が目立たないように、みたいなことは考えていたと思います。

この映画みたいに事件を追う時代劇でいうと「鬼平犯科帳」。あれなんか、「吉右衛門さん、5分ぐらいしか出てなかったな」とかあるじゃないですか(笑)。なるべく、動きやリアクションも目立たないように、この作品の中に馴染むようにして、むしろ劇中で目立ってくるのは森田座の面々で、僕は下がれるように意識していたような気がしますね。

それと僕、ちょっと背が高いので、 目立ちすぎないようにしなきゃとも考えていたんじゃないかな。 そうそう、出演者のみなさん、作兵衛役をやりたがっていたらしいです。篠田金治役の渡辺謙さんもおっしゃっていました。「俺は作兵衛がやりたかった」って (笑)。いい役なんですよ、作兵衛って。

魅力的な仇討ちの映像美

——完成された本編をご覧になって、どんな感想をお持ちになりましたか?

なかなか客観的に観られないんですよね。いつもそうなんですけど、今回の理由の1つとして、僕は今まで源監督の作品は、NHKのテレビ作品しかやったことがなかったんです。それが、やっと映画に呼んでもらえた感慨と、源監督のこの作品を撮りたいという思いの方に気持ちを持っていかれて、なかなか冷静に観られないんですよ。

——柄本さんにとって源監督、そして源組というスタッフは、どんな存在ですか?

源監督は、僕を一番リピートして使ってくださっている監督で、現場は、もう実家に帰るぐらいの感覚で勝手知ったる場所なんです。

コロナがあってから数年、源組で仕事をしていなくて、NHKのドラマ「グレースの履歴」で数年ぶりに呼んでもらって、衣装合わせに行ったら、知っている人たちがいて‥‥。それに、すごくほっとしたんです。不安定な状況下だったので、みんな大丈夫かなって、どこか無意識で思っているところもあったんでしょうね。あのときは、なにか温かいものに包まれているような安心感のなかで仕事をした記憶があります。そういう場所があるって、本当にありがたいなと思います。

——柄本さんが思う源監督、源組の魅力ってなんですか?

やっぱり映像美ですね。いつも思うけど今回も十二分に発揮されています。冒頭15分ほどの仇討ちのシーンは、源監督とカメラマンの朝倉 (義人) さんが腕を振るった非常に見応えのある美しい仕上がりです。見ていて気持ちいいです。 あと源監督の作品は、一点集中になりすぎないんですよ。常に洒脱というか、シャレが効いたバランスが絶妙。常に引いたところにいて、決して周りが見えていないっていうことにはならない。源監督って、なんでそんなに撮るの?と思うぐらい、年にたくさんの作品を撮っているから、状況を冷静に判断しつつ、見ていて疲れないちょうど良い軽さがあるのが良さだと思います。

癖だらけの共演者と役を楽しむ

——森田座の面々を演じた共演者の皆さんの印象を教えてください。

謙さんは、役柄通り現場をまとめ、場を和ませてくださいました。初共演でしたが、本当におおらかな方です。

実は、他の方々も初めてに近い方ばっかりだったんですよ。滝藤 (賢一) さんも北村 (一輝) さんも高橋 (和也) さんも正名 (僕蔵) さんも、何度かご一緒はしているんですけど、がっつり共演したみたいなことが少なくて。だから今回、一緒に芝居をやらせてもらって楽しかったです。

僕、物語の後半で森田座のみんなに囲まれるんですけど、もう見渡す限り癖のある方だらけで‥‥。ちらっと横目で見たらなんかやっているし、みなさん役を楽しんでいるなって思いました (笑)。本当、みんな楽しそうだなって思った現場でした (笑)。

あと僕、瀬戸 (康史) さんがすごく好きなんです。瀬戸さんも初めてご一緒したんですけど、非常に相性の良さを感じました。一緒にやっていて、波長が合うなって思いました。元々、瀬戸さんが出演されている、NHKの「グレーテルのかまど」も好きで見ているんですけど、今回ご一緒させていただけて、本当に嬉しかったんです。

——劇中に「芝居小屋は戯場の國」という篠田金治のセリフがあります。多くの人間がどんな立場でも同じ目的のために生きている、という感覚は映画作りにも通ずるものがあると思っています。柄本さんの映画についての思いを伺いたいです。

映画、ドラマ、舞台と、いろんな仕事がありますけど、やっぱり僕は映画が好きでこの世界に足を踏み入れているので、映画は一番緊張するし、一番大事な場所です。ある種、原点ですかね。いろんな作品に出させてもらっているんですけど、今も常に憧れている場所です。僕にとって映画って、そんな感じです。

今、時代劇が必要とされている

——時代劇の魅力と時代劇のこれからをどう受け止めていらっしゃいますか?

まず時代劇の魅力で言うと、すこぶる面白いということですね。現場も面白いし、作品も面白いし、チャンバラも面白いし、心温まる人情もある。

人情という助け合い、人の優しさが時代劇にはある。そういった人の温かさは、現代劇よりも少し時代を隔てた時代劇を通した方が、より心に届くんですよね。今の時代、そうした人の温かさを求めていると思うから、時代劇は、これからどんどん必要とされてくるんじゃないかな。

それに、今、時代劇の作品がまた増えてきていますよね。2024年に配信されたドラマの「SHOGUN 将軍」が盛り上がってくれたっていうのも、ひとつの起爆剤になったと思うんですけど、その前から色々と動き始めている気がしています。それと時代劇の現場ってオープンセットもあるし、照明もガンガンに使えるし、なんか活気があるんですよね。

このあいだ森山未來さんが、丹下左膳をドラマでやっていたし、「赤影」もTVでやっているし、3月には眠狂四郎もあるし、うちの弟は大岡越前をずっとやっている。僕も『黒牢城』の公開が控えているしで、業界全体で、時代劇を続けていこうという流れがあるんでしょうね。

で、そうやって作品が増えてくれると、僕も出演させていただけるチャンスが増えると思うんで、ありがたい限りです (笑)。

——これから『木挽町のあだ討ち』を観る方にメッセージをお願いします。

本作は、”誰も悪者がいない気持ち良さ”をうまくすくい取った作品です。これからどんどん時代劇が身近になっていくと思うし、時代劇っていう枠にとらわれずに観ていただきたい。

僕、この初号試写を娘と一緒に観たんですけど、小学生の娘もゲラゲラ笑って楽しんでいましたから (笑)。この作品は本当に老若男女、年代を問わないエンタメ作品になったと思います。それは自信を持って言えるので、劇場に来ていただければ、非常に痛快な気分で帰っていただけると思います。

取材・文 / 小倉靖史
撮影 / 立松尚積

映画『木挽町のあだ討ち』

ある雪の降る夜、芝居小屋のすぐそばで美しい若衆・菊之助による仇討ちが見事に成し遂げられた。その事件は多くの人々の目撃により美談として語られることとなる。1年半後、菊之助の縁者と名乗る侍・総一郎が「仇討ちの顛末を知りたい」と芝居小屋を訪れる。菊之助に関わった人々から事件の経緯を聞く中で徐々に明らかになっていく事実。果たして仇討ちの裏に隠されたその「秘密」とは。そこには、想像を超える展開が待ち受けていた。

監督・脚本:源孝志

原作:永井紗耶子「木挽町のあだ討ち」(新潮社刊)

出演:柄本佑、長尾謙杜、瀬戸康史、滝藤賢一、山口馬木也、愛希れいか、イモトアヤコ、冨家ノリマサ、野村周平、高橋和也、正名僕蔵、本田博太郎、石橋蓮司、沢口靖子、北村一輝、渡辺謙

配給:東映

Ⓒ2026「木挽町のあだ討ち」製作委員会
Ⓒ2023 永井紗耶子/新潮社

2026年2月27日(金) 全国公開

公式サイト kobikicho-movie