幼い頃から「アイドルになりたい! 」と願うケンジは、成長とともに自分らしさと周囲の視線に苦しむ日々を送っていた。学校でいじめを受け、家族にも相談できずにいたが、両親に内緒で働き始めたショーパブで、華やかで個性豊かなメンバーと知り合い、「アイ」という名前をもらいステージデビューを果たす。そんなときアイは一人の医師、和田耕治と運命的な出会いをする。過去に患者を救えなかったことで苦悩を抱える和田は、アイの深い苦悩を知り、当時の日本ではタブーとされていた性別適合手術の世界へ足を踏み入れることを決意。世間の偏見にさらされ葛藤しながらも研究を重ね、アイは彼の性別適合手術患者第1号となる。孤独を抱えた二人が互いを支え合い自分らしく生きるための道を見つけていくーー。
「エアあやや」の口パクモノマネで一世を風靡した”はるな愛”と心に傷を抱える一人の医師、和田。その二人の奇跡の出会いとかけがえのない信頼と絆の物語がNetflix映画として鮮やかに蘇る。主演は18歳の新星、望月春希、そして主人公に大きな転機をもたらす実在の医師・和田耕治を実力派俳優・斎藤工が熱演。これまで注目作を手掛けてきた松本優作が監督を務める。
予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』。今回は、Netflix映画『This is I』の松本優作監督に、本作品や映画への思いなどを伺いました。

「はるな愛さんのような映画にしたい」という思い
池ノ辺 『This is I』は、鈴木おさむさんからNetflixに持ち込まれた企画で、はるな愛さんの自伝「素晴らしき、この人生」と和田医師の「ペニスカッター:性同一性障害を救った医師の物語」(和田耕治・深町公美子)を参考にされたと伺いました。私自身は、はるな愛さんの明るく元気というところしか知らなかったんですが、映画化にあたっては、どんなところをどんなふうにどんなイメージで撮っていこうというところからスタートしたんですか。
松本 初めてはるな愛さんにお会いしたとき、ものすごく感情豊かな方だという印象を受けました。さっきまで大爆笑していたかと思えば、次の瞬間には感動して号泣している。本当に感情のジェットコースターのような人だなと感じたんです。だからこの映画も、そんなふうになればいいな、という思いはずっと意識していました。すごく楽しくて華やかなシーンがあるかと思えば、急にズーンと重くなるような、きついシーンもある。最初から「はるな愛さんのような映画にしたい」という気持ちで、作品と向き合っていました。

池ノ辺 はるなさんは「映画化するよ」となったことについては何かおっしゃっていましたか。「きれいに撮ってね」とか (笑)。
松本 僕がこの企画に加わった時には、やる方向で動いていたので、はるなさんは映画化にとても前向きな雰囲気で僕を受け入れてくださいました。取材では、どの質問にもひとつひとつ丁寧に答えてくださり、時にはお電話で直接、脚本について相談させていただくこともありました。 終始とても親身に寄り添い、全面的にご協力いただいたことに、心から感謝しています。
池ノ辺 そうなんですね。
松本 実際に、その時点で出来上がっていた脚本を読んでくださり、「このセリフは自分なら言うかな、言わないかな」と、細かなニュアンスまでひとつひとつ考えてくださいました。セリフの言い回しについての意見だけでなく、「昔こんな作品を観ていて好きだったんだ」という思い出話まで、本当にいろいろな話をしながらサポートしてくださったんです。さらに、「エアあやや」を主演の望月春希さんに直々に教えてくださるなど、挙げればきりがないほどのご協力をいただきました。その上で、「ここは絶対にこうしてほしい」というのはなくて、最後まで僕たちを信頼し、作品を任せてくださいました。その信頼が本当にありがたかったです。

池ノ辺 それは嬉しいですね。きっとはるなさんにとっても、ご自身がいろんな経験をして、大変なこともあって、それでもそこを越えてきた。だからこそ、この映画を監督に撮ってもらおう、という思いがあったんじゃないでしょうか。
松本 そうだといいなとは思います。
池ノ辺 身近で観た人からの反応はいかがでしたか。
松本 自分としては、すごくポジティブないい反応をいただけていると感じています。というのも、「ここが良かった」「あそこが良かった」と、さまざまなポイントについてコメントをいただいているんです。お芝居や音楽はもちろん、ミュージカルシーン、メイク衣装や美術など、作品のいろんな要素を楽しんでいただけていて、結果として、観る人それぞれが違った楽しみ方のできる作品になったんじゃないかなと思っています。
池ノ辺 医師の和田先生のことは、今回この映画で私は初めて知りました。
松本 僕もこの映画に関わることになり、和田先生の著書を読むまでは、その事実を知りませんでした。実際に本を読んで、当時の日本では性別適合手術がまだタブーとされていた時代に、「患者さんを助ける」という信念を貫き、手術を行われていたことにまず驚きました。そんな方がいたんだと。さらに、その大きなきっかけが、はるな愛さんであり、患者第1号がはるなさんだったということも含めて、本当に自分の知らないことだらけでした。
池ノ辺 私も驚きました。そしてこれがその後のはるなさんの生き方を左右する重要な出発点だったんですからね。
松本 そうなんです。和田先生自身もはるなさんとの出会いで人生がすごく変わった。本当に奇跡的に出会うべくして出会った、お互いにそういう存在なんだと、本を読んだりお話を伺って思いました。
池ノ辺 今は時代もどんどん変わってきて、いろいろなあり方があるんだと捉えられていると思いますが、それでもはるなさんが元気で頑張っているのをみると、こちらもすごく勇気をもらいますよね。
