人気急上昇中のアイドルグループ「ハッピー☆ファンファーレ」でセンターを務める山岡真衣は、中学時代の同級生・間山敬と偶然再会し、恋に落ちる。アイドルとして背負う「恋愛禁止ルール」と、抑えきれない自身の感情との間で葛藤する真衣。しかし、ある事件をきっかけに、彼女は衝動的に敬のもとへと駆け寄る。その8カ月後、所属事務所から「恋愛禁止条項違反」で訴えられた真衣は、事務所社長、チーフマネージャーらによって、法廷で厳しく追及されることとなる。
日本の現代社会においてアイドルは、時に大きな熱狂を生み出す存在でありながら、その裏側で人間らしい感情をルールで縛られる矛盾を抱えている。本作は実際に起きたアイドルをめぐる裁判に着想を得、約10年を費やして映画化された。主役の山岡真衣を演じるのは本作が映画初主演となる元・日向坂46の齊藤京子、国際的評価の高い深田晃司が監督のほか企画・脚本(共同) も手がけた。
予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は『恋愛裁判』の深田晃司監督に、本作品や映画への思いなどを伺いました。

一つの小さな裁判の記事が映画化されるまで
池ノ辺 今回の『恋愛裁判』はオリジナル作品なんですよね。監督がニュースを見て映画化しようと思われたのだとか。
深田 そうです。2015年の末頃だったと思います。ウェブの小さな記事で、アイドルの女性がファンと恋愛をして、それが契約に違反したというので所属事務所から損害賠償請求の訴訟を起こされ、女性側が敗訴して賠償を命じられるというのがありました。その記事を読んだ時、まずシンプルに驚いたんです。もちろんアイドルにとって恋愛が御法度というのは知識としては知っていましたが、それが契約書にまで書いてあるのかと。実際、判決には契約書に記載された恋愛禁止の規約が強く影響したそうなんですけど、それで裁判にまでなるということに驚きました。

池ノ辺 そこから、どういう流れで映画化ということになったんですか。
深田 最初は、率直に「これって人権的に大丈夫なの? 」ということが気になったんですけど、一方で、アイドルのキラキラした、カラフルで華やかで、曲線的な世界と、裁判所というものが醸し出す非常に直線的な色気の少ない世界が、映画という一つの世界の中に共存するというのはすごく面白いと思ったんです。ちょうどその頃、僕は『淵に立つ』(2016) という映画の仕上げをしている時期で、一緒に作っていた制作プロデューサーの戸山剛さんと事務所で作業をしながら、本当に雑談で「こういうことがあるんだけど、これを映画にしたら面白くないですか?」と話したら「それ、面白いじゃん」と‥‥。
池ノ辺 プロデューサーも食いついたんですね (笑)。
深田 そうです。戸山さんはもう何十年来のアイドルファンで、面白いからすぐやろうと背中を押してくれたんです。そこから企画の開発が始まりました。2016年の初め頃です。

池ノ辺 そこからほぼ10年かけて作ってきたわけですね。ちなみに、監督ご自身は、アイドルファンというわけではなかったんですか?
深田 好きでも嫌いでもないっていうか、関心は薄かったです。だからこそ、その事件の記事に対して新鮮な驚きがあったのかもしれません。とはいえ、この映画を作ろうということになれば、当然取材もします。アイドルについて調べたり取材したり、ライブに行ったりしていくなかで、「今、普通に日本で暮らしていたら、アイドルに関心があろうとなかろうと、やっぱりアイドルカルチャーというものは日常なんだ、そこと自分たちは共存してきたんだ」と改めて感じました。
池ノ辺 それはどういうことですか。
深田 実際、歌番組でも、テレビドラマでも映画でも、CMでも、アイドルというのは当たり前のようにそこにいて、僕たちの消費生活を支えているわけです。自分も考えてみたら、相米慎二や澤井信一郎のアイドル映画は好きで見てきました。そしてそれはたぶん日本だけじゃなく、韓国をはじめとする他のアジアの国々でもそうなんですよね。だとすれば、この話は、とりわけアジアでは普遍的な題材になり得るんじゃないかと思った覚えがあります。