「ひとりでも彼の生き様を多くの人に知ってほしい」映画『栄光のバックホーム』松谷鷹也×鈴木京香インタビュー

試写を観て泣いた理由

——完成された本編をご覧になって率直にいかがでしたか?

鈴木 自分が出ている作品を初めて観る際は反省することが多くて、どちらかというと客観的に見られないんです。ですけれど、今回は横田慎太郎さんという素敵な青年にものすごく感情移入して観ました。皆さんが彼にまつわる逸話に感動で涙してくださっている気持ちも分かったし、不思議な感覚でしたね。

秋山監督は役者の様子をよく見てくださっていて、役者の気持ちがしっかりできていると、タイミングよく「本番」って声をかけてテストの回も重ねずに撮ってくださるんです。たくさんの場面に興味を持っていたんですけれど、やっぱり”みんなが本当に集中している瞬間を切り取ってくださった”と感謝しています。

——役者さんファーストで撮影されていたんですね。松谷さんは、本編をご覧になっていかがでしたか?

松谷 もう本当に京香さんが素晴らしかったです。

鈴木 いえいえ、鷹也くん、素晴らしかったですよ。本当にそれはね、みんな現場で思っていました。

松谷 完成した本編を観たときはボロ泣きしちゃいました。エンドロールの最後まで仕掛けがあって、しっかり慎太郎さんの生き様が描かれていますし、この映画を観ていただいた方が何か感じ取ってもらえるような作品になっていたというのはもちろんですけど、僕は”慎太郎さんが本当に亡くなっちゃったんだな”とあらためて思ってしまったんですよね。 映画を観ていて、”慎太郎さんが、どこかずっと存在している”ように感じていたのが、最後に現実に戻されたような気がして、僕はそこですごく泣いてしまいました。

——松谷さんは、本作の映画化プロジェクトが始まったときから参加されて、生前の横田さんと交流があったとお聞きしました。実際、ご本人とお会いしてのエピソード、演じる際に思うところがありましたら教えてください。

松谷 4年前ぐらいに秋山監督から「『二十歳のソウル』の次は横田慎太郎さんの映画を企画して、慎太郎さん役を僕で考えている」とおっしゃっていただきました。

コロナ禍だったので最初はオンラインで僕と秋山監督、脚本家の中井由梨子さん、慎太郎さん、たまにお母様のまなみさんを交えて、やり取りをさせてもらっていました。そのなかで、慎太郎さんからグローブをいただいたりもしました。

実際、鹿児島にも行かせてもらいました。講演会にも参加させてもらいましたし、ホスピスに入ったときもお見舞いに伺いましたし、お葬式にも参列しました。ですから、僕が目の前で見てきたことをそのまま演じているシーンもあったので、慎太郎さんの人生を追体験させてもらったような感じですね。 慎太郎さんが「病気になって、本当にいろんな人に助けてもらったから、これからそういう人たちを僕が支えられるようになりたい」「本当に世のため、人のために何かしたいです」とおっしゃっていて、それを聞いたときのことは、いまでも印象に残っています。

辛くとも微笑む母性

——鈴木さんは本作のオファーを受けたときは、どんなお気持ちだったんですか?

鈴木 私は阪神が18年ぶりにリーグ優勝したときに、背番号24のユニフォームが球場に入ってくる映像を見ていたんです。お話しいただいたとき、”あぁ、あの選手の母親役のお話いただいたんだ”と、とても嬉しかったんです。

それまで横田選手のことをよく知らなかったけれど、阪神の選手たちが、彼のユニフォームを持って、一緒にリーグ優勝を祝いたいと思うくらい、みんなに愛されていた選手で、色々と調べていくうちに選手としてだけではなく、ひとりの青年として、本当に素晴らしい方だったんだなと感じました。そのお母さん役をやれるというのは嬉しいことでした。

——嬉しかったとのことですが、本編ではプロ野球選手を目指して頑張っている息子が脳腫瘍を患い、闘病生活を支える辛いシーンの方が長いですよね。

鈴木 母親のまなみさんが取材を受けているVTRを拝見したんですけれども、”辛いときでも、ずっと息子の慎太郎さんを誇らしく思いながらそばで支えていらしたんだと感じました。だから、とにかく辛いときに辛いと表現するのではなく、いつも微笑んでいるお母さんを演じたいと思いました。

——その取材VTRが役作りに活かされたんですね。

鈴木 脚本と原作の「奇跡のバックホーム」、「栄光のバックホーム」の2冊を読みますと、まなみさんは、辛いこと、悲しいことも多かったと思いますが、”素敵な息子を授かった”と感謝の気持ちを常に持ってらしたと思います。

子どもの頃は野球に夢中だった息子だから、そんなに一緒には居られなかった。だから闘病中ではあるけれども、息子と一緒に居られる時間っていうのは、辛いだけじゃなくて、幸せとか喜びとか、そういったことも感じると思うんです。

私も鷹也くんがいつも現場で慎太郎さんとしていてくれたことに感謝しています。本当に鷹也くんの様子を見て、私は”彼の前では辛い顔をしたくない”と自然に思うことができました。いつも鷹也くんをしっかり見ていればいいと感じて、演技をする上では苦労はなかったです。

松谷 ありがたいお言葉です。

鈴木 本当ですよ。

彼を知れて本当によかった

——松谷さんは鈴木さんと共演されていかがでしたか?

松谷 京香さんとは、衣装合わせの時に初めてお会いさせていただいたんですけど、その瞬間から最後まで、もう本当に母と息子みたいで。今もそんな感じで接していただいているので、ずっとお母さんだと思ってお芝居をやらせてもらいました。

京香さんと2人だけのシーンも結構あったんですけど、初めからずっとお母さんと息子の関係で居させていただいたので、すんなり演じることができました。多分、”僕を緊張させないようにしてくれたんだな”と思っているので、感謝しかないです。本当に包み込むような優しさでした。

——本作を拝見して、横田慎太郎さんは目標を持つことで闘病生活を戦い抜いたと感じています。おふたりの今の目標を教えてください。

松谷 この作品自体もそうですが、慎太郎さんのことをひとりでも多くの方に知っていただきたいという気持ちが、とてもあります。公開日までに自分にできることをちゃんと最後までやりきるというのが今の目標です。

鈴木 私自身、横田慎太郎さんのことを知ることができて本当に良かったと思っています。

この映画に関わったおかげで、周りの方たちの慎太郎さんを想う気持ちの美しさも知ることもできました。だから、とにかくひとりでも多くの方に横田慎太郎さんのことを知ってもらいたい。

この映画を観ていると”努力は裏切らない”と感じるんです。一生懸命に何かひとつのことに向き合っている人は、きっと何かを感じ取って、映画館から持って帰ってもらえると思うので、とにかくひとりでも多くの人に観てもらいたいですね。

だから、私たちふたりとも口下手なんだけど、一生懸命宣伝活動しているのよね?

松谷 はい、頑張ってはいるんですけどね‥‥(笑)。

鈴木 難しいけれど、がんばって宣伝していきたいですね(笑)。

取材・文 / 小倉靖史
撮影 / 岡本英理

映画『栄光のバックホーム』

2013年のドラフト会議で阪神タイガースに2位指名された横田慎太郎、18歳。甲子園出場を逃すもその野球センスがスカウトの目に留まり、大抜擢された。2016年の開幕戦では一軍のスタメン選手に選ばれ、見事に初ヒット。順風満帆な野球人生が待っていると思われたその矢先、慎太郎の体に、ボールが二重に見えるという異変が起こる。医師による診断結果は、脳腫瘍。その日から、慎太郎の過酷な病との闘いの日々が始まる。しかし、母のまなみさんら家族、恩師やチームメイトら、慎太郎を愛してやまない人たちの懸命な支えが彼の心を奮い立たせる。そして、2019年9月26日、引退試合で慎太郎が魅せた“奇跡のバックホーム”は人々を驚かせ、感動を呼んだ。だが、本当の奇跡のドラマは、その後にも続いていたのだった‥‥。

企画・監督・プロデュース:秋山純

原作:「奇跡のバックホーム」横田慎太郎(幻冬舎文庫)

出演:松谷鷹也、鈴木京香、前田拳太郎、伊原六花、山崎紘菜、草川拓弥、萩原聖人、上地雄輔、古田新太、加藤雅也、小澤征悦、嘉島陸、小貫莉奈、長内映里香、長江健次、ふとがね金太、平泉成、田中健、佐藤浩市、大森南朋、柄本明、 高橋克典

配給:ギャガ

©2025「栄光のバックホーム」製作委員会

2025年11月28日(金)  TOHOシネマズ日比谷 他 全国ロードショー

公式サイト gaga.ne.jp/eikounobackhome/