村上春樹が25年前に発表した短編集「神の子どもたちはみな踊る」を映像化。1995年の阪神・淡路大震災により喪失感を抱えた人々が、様々な時代と場所で自分の心を見つめ直していくヒューマンドラマ『アフター・ザ・クエイク』が、10月3日より全国順次公開となる。4編で綴られる物語は、NHKドラマ「地震のあとで」というタイトルで2025年4月に放送され、岡田将生、鳴海唯、渡辺大知、佐藤浩市を主演に迎えたことでも話題となった。今作は、劇場版としてそれらの話を繋ぐ新たなシーンを追加し、1本の映画として再編集されている。監督は連続テレビ小説「あまちゃん」の井上剛。映画では最後のエピソードに登場する【かえるくん】の声を、のんが担当していることにも注目だ。
今回、ここでインタビューをするのは名優・佐藤浩市さん。2025年が舞台となる新宿・歌舞伎町で【かえるくん】と不思議な出会いを果たし、地球の危機に挑む【警備員・片桐】を演じた佐藤浩市さんに、本作での思い出や、45年の役者人生から見る昔と今、そして未来を語っていただきます。

――4編で綴られ、やがて繋がっていく映画の企画を最初に聞いた時は、どのように思われたのですか。
“え?これをやるのか?!”と思いましたよ。というのも、原作である村上春樹さんの小説「神の子どもたちはみな踊る」を読まないと、僕が出ている話は分からないのではと。だって原作の続編という位置付けだから。この映画では、僕が演じた【警備員・片桐】のバックボーンが描かれていないので、原作を読んで彼の過去を理解した上で観た方がいいのか、正直、何とも言えないです。他の3本 (「UFOが釧路に降りる」「アイロンのある風景」「神の子どもたちはみな踊る」) は、日常とリンクしているので安心して見終えると思うんです。ただ前3本に比べて僕が出ている最後の4本目(「かえるくん、東京を救う」)は、逆にそこから凄く離れているところにあるので、観客に理解されるだろうか、という気もします。凄く不思議な内容ですし。逆に観た人で原作を読んでいる人と読んでいない人の話を聞きたいです。

――私は、原作となる「かえるくん、東京を救う」も挿入されたピエール・フォルデス監督のアニメーション映画『めくらやなぎと眠る女』(2022) を観ていたので、あの独特の世界観を今の新宿歌舞伎町を舞台に表現していることで不思議な魅力を放ち、目が離せませんでした。4編に連なる物語で構成された映画の軸は、災害です。確かに阪神・淡路大震災当時を思い出すけれど、その出来事がフラッシュバックするような作りにはしていないですよね。さらに原作には描かれていない東日本大震災へとリンクしていき、新型コロナウィルスにも繋がっていく。それらの出来事を人間の感情をメインに、時にファンタジックに描いていく映画的アプローチで、自分の思いを見つめ直すきっかけになりました。
そうですね。あくまで阪神・淡路大震災がきっかけとなる物語です。村上春樹さんご自身が関西出身ということもあって、すごく身近なところでこの本を書き始めたのではないかと思います。そこから立て続けに災害が日本を襲った時代を描くことで、コロナも含めて世界的に物語の登場人物のような感情になっているということにも気付かされる。さらに何が起こっても誰も驚かなくなってしまうぐらいの世の中になってしまったんだと映画を通して見えて来ますよね。それをどういう風に観客が受け止めながら、創造物に対してどう距離を取りながら観るのか、ということが大事な気がします。この映画は、“創造物であるから、そういう物だから”と思って割り切って観るものではないと思うし、もう昔のことだからではないんです。これらの出来事や感情は、決して対岸の火事ではないんです。






