世界最古の映画祭であり、ベルリン、カンヌと並び、世界三大映画祭の一つとして、夏のヨーロッパを華やかに飾るヴェネチア国際映画祭は、今年で82年目を迎えた。映画祭立ち上げ時はヴェネチア・ビエンナーレの映画部門として芸術性の高い作品を世に出しつつ、50年代以降は日本からも溝口健二監督、黒澤明監督、北野武監督、そして宮﨑駿監督らの作品が多く紹介され、日本映画は常に寵愛されてきた。近年では、ベルリンやカンヌに負けず劣らず、ハリウッド・スターたちがこぞって訪れる、まさに夏の“スター大集結”祭りになっていたが、今年の会場は、今までになく熱量が高かった。
スイスを拠点にエンターテインメントの魅力を発信している高松美由紀が、世界の様々な映画事情などを綴る『映画紀行』。今回は、映画を通して世界と闘う人たちがフィーチャーされたヴェネチア国際映画祭の底力を体験、現地のトレンドをお伝えします。


ベネチアの看板男、ジョージ・クルーニー降臨 イタリアの避暑地に映画スター達が連日登場
まずは映画祭の前半戦では、なんだかイタリア人以上にイタリア人らしいハリウッドの伊達男、ジョージ・クルーニーが妻であるアマル・クルーニーとともに自身の主演作『Jay Kelly(原題)』のプレミア上映に登場。今年、彼は副鼻腔炎を患っていたそうで、一部の取材をキャンセル。そのためか、海外のメディアたちからは「アマルとの不和」情報までも流布されていた。有名人は何かとつらいものである。本作では、60代になって人生の試練に直面する世界的な映画スターを、ジョージ自身が演じており、ヴェネチアでの世界お披露目が徐々に恒例となりつつあるNetflix製作の超話題作として、華やかに紹介された。

その他、ジム・ジャームッシュ監督は自身の新作『Father Mother Brother Sister(原題)』をヴェネチアで世界初披露、ケイト・ブランシェットら豪華キャスト達が3種の家族模様をオムニバスで演じており、最終的には最高賞である金獅子賞を掴んだ。台湾の女優・スー・チーは侯孝賢 (ホウ・シャオ・シェン) 監督のミューズであり、彼から受け継いだDNAが垣間見える自身の初監督作品『女孩 (英題:Girl) 』を世界初上映し、スタンディング・オベーションを受けて涙に咽ぶ瞬間もあった。

ソフィア・コッポラ監督は自身の新作ドキュメンタリーで友人のデザイナーであるマーク・ジェイコブスを描いた『Marc by Sofia』を引っ提げ、ガス・ヴァン・サント監督は、70年代に実際に起きた事件をもとに住宅ローン地獄に陥った家族を救うために犯罪に手を染めたその家族の息子を描いたドラマを映画化した『Dead Man’s Wire (原題) 』で、観客を大いに沸かせた。その他、韓国の奇才パク・チャヌク監督の新作でイ・ビョンホン主演のサスペンスドラマ『No Other Choice (原題) 』がヴェネチアで世界初のお披露目をした直後に、キノフィルムズ配給で2026年3月に日本で公開されるという嬉しいニュースも飛び込んできた。来日するたびに秋葉原や中野ブロードウェイ近辺で目撃情報が頻発する日本が大好きなギレルモ・デル・トロ監督は自身の新解釈映画『フランケンシュタイン』を上映、こちらも熱狂的に観客から受け入れらていたようだ。
