「さよなら 丸の内TOEI」プロジェクトとは? 東映社員の有志メンバーが仕掛けた閉館イベントの舞台裏 ③ 〜宣伝視点からのプロジェクト全体支援

東映株式会社 映画宣伝部 所属
“さよなら 丸の内TOEI ” プロジェクト

クリエイティブ関連 担当

櫻井 傑

――櫻井さんも初期からのメンバーですよね?

そうです。元々映画館という空間が好きで、学生時代はよく単館・ミニシアターのシネマ・ジャック&ベティさんや新宿武蔵野館さんに通っていました。だからこそ丸の内TOEIがなくなることはかなり驚きでした。自分たちの会社の社屋、そしていつでも行ける映画館だった場所がなくなるなら、「これを上映したい」「あの方をお呼びしたい」といった話が飲み会で盛り上がったんです。

――普段は宣伝部にお勤めですよね?

そうです。映画宣伝部に所属していて、新作の予告映像やキービジュアルのディレクションを担当しています。なので、そういった部分でこのプロジェクトに貢献できればいいな、と思って参加しています。自分も含めてみな通常業務との兼業ですが、自分の業務と近いところでプラスアルファの業務をこなす、というかかわり方ができているのではないでしょうか。

――ポスタービジュアルのディレクションで、明るいイメージにしたのは櫻井さんだったとか。

ビジュアルの制作資料を見返すと「フィナーレを盛り上げる明るさを感じさせることが重要」と書いていましたね。今と昔の東映会館を向かい合わせているデザインは、『プリキュア』シリーズの映画ビジュアルを数多くご担当していただいているご縁もあって小坂香織さん(株式会社 日宣)にデザイン制作をお願いしました。じつは左側にある東映会館のビジュアルは、1960年当時に発売された劇場パンフをもとにしているんですが、このプロジェクトの説明会をしていた時期に発掘されまして。

――よくぞこのビジュアルが残ってたなと思いました。

そうなんですよ。65年の歴史が終了、というのではなく、東映が未来に続くという明るさがほしいと思っていたときに、このビジュアルの存在を知りまして、今の外観とあわせて宣材を作りたいと思ったんです。それで小坂さんにコンセプトをプレゼンして、2つの素材をお渡ししました。そこで出たのがイラストにするアイデア。小坂さんには創業時の丸の内TOEIと現在のものを背中合わせにして一つの建物のようにして立体的な存在感を出すのか、完成したビジュアルのように向かい合わせて、建物同士の間の空間(丸の内TOEIがある空気感)を味わってもらう方が良いか、など色々と考えていただきました。その中で、創業時のイラストと合わせて使用するにあたって同じ世界観を出せるイラストレーターの島田恵津子さんにお願いできたことはラッキーでした。“7月の昼間の青空で寂しさは無いはずなのにどこか切なさを感じる空気感”を出せたらという狙いで、「夏空と白雲」にこだわったことで、丸の内TOEIの外観、空、風景を含めて明るさもあり、フィナーレを感じさせるビジュアルに仕上げることができました。

――上映作品群の幅広さも宣伝する側としてなかなかのチャレンジでしたね。

本当にすごい量の作品を弊社は製作・配給しているので、知らない作品も山のようにあるんです。このプロジェクトでは公式サイトを立ち上げて個々の作品を紹介しないといけないのに、それも一からですよね。ジャンル分けして、作品紹介を作っていくなかで、自分自身も「こんな作品があるんだ、観てみたい!」と思うことも多々ありました。

――未見で気になっている作品は?

公式サイトの立ち上げ準備の際に、当時の作品紹介テキストやパッケージの紹介文を見ていたなかで『飢餓海峡』(1964) は観ないといけない、と思わされました。あとは、改めて『バトル・ロワイアル』(2000) をスクリーンで観たくなりました。公開当時はまだ映画館に行けるような年齢ではなかったですし、DVDで観たきりですから、映画館の大きなスクリーンで観たいですね。

――今回の上映でいらしているお客様も、このプロジェクトをきっかけに未見の作品をスクリーンで体験しているという方が多いのでは?

そうだと思います。じつは先程、劇場をのぞいてきたんですが、平日の昼間だというのに老若男女問わずさまざまな年代のお客様がいらしていたんですよ。旧作の持つパワーや魅力に惹かれてもう一度観に来られた方々だけでなく、聞いたことはあるけどまだスクリーンで見たことがないという方もいらっしゃるでしょうし、本当にいろいろなお客様にご来場いただいて、こちらが驚かされました。改めて往年の名作と凄さや、自分がやりがいのある仕事に携わっていると実感しています。

――ポスターだけでなく予告映像も作られていますよね?

これが本当に大変で。過去の素材を集めるところからして苦労の連続でした。デジタル化されていない作品もありましたし、そもそも素材はあるけどどこを切り取るかの選択を一からやらないといけませんでした。だからこそ、短い期間でとんでもない量の素材をかき集めて許諾まで整えてくれた、同じプロジェクトメンバーの築井と中田には本当に感謝しています。弊社配給作品の予告篇を多く手掛けてくださっている白仁田康二さん (株式会社ゼロ号) にお願いしたんですが、白仁田さんと進めていく中で「複数の作品の魅力をテンポよくつないで、歴史的イベントの告知にするにはどうしたらいいか」という壁にぶつかりました。なぜなら、一つの作品の予告を作ることとは違って、複数の作品それぞれの魅力を伝えながらギュッと凝縮したトレーラーにするのは初めてだったので。

しかも、丸の内だけでなくいろいろな劇場さんで流していただくためには、可能な限り短くしないとならない‥‥。白仁田さんとは「65年の歴史を予告の短い時間でどう表現できるか?尺ってどのくらいになっちゃうのか?」など色々と議論を重ねました。それに加えて、プロジェクトメンバーと話していると、あれもこれも、となっていくんです(笑)。私の通常業務の目線からではない視点からの要望や意見を知れたので、すごく勉強になったんですが、それにしてもどうまとめたらいいのか‥‥。そこで白仁田さんとも話をして、尺上限を60秒までと決めて、しっかりとテンポ良く、東映歴代の作品を知っている人も知らない人にも興味を喚起できるものを作ろうとやりとりをしていったんですが、本当に大変な作業でした。最終的に“テンポ良く”素敵な形に着地して良かったです。

――過去作を知っている評論家や専門家を入れて切り取ったりは?

基本的には、白仁田さん以外はプロジェクトメンバーで進行していました。大変ではありましたが、それが功を奏したこともあります。各作品の素材に関して社内チェックをしないといけないので、そのスピード感は維持できたと思います。出来上がるまでは当然、ヒヤヒヤでしたね。切り取ってつないでみたものの、チェックでダメ出しが出たらやり直しですから。

――作品と作品のつなぎによっては、どちらかの作品の印象が変わったりしますものね。

そうなんです。テンポ感を大事にして作っていたので、何かの作品でNGが出るとテンポが崩れてしまうんですよ。たとえば、印象的なシーンを使ったとしてもそれでNGが出たときに、なかなかうまく差し替えられる素材がない、となったらどうしようというヒヤヒヤの連続です。しかも、プロジェクト自体が時間の経過とともに大きく本格化していくと、当然のことながら上層部や権利関係者の方々がチェックする段階になって‥‥内心ドキドキでした。

――NGはでましたか?

幸いなことに大きな直しはありませんでした。ただ、それほど大きな直しはなかったにしろ、想像していたよりも確認作業自体はずっとタイトだったので、それで期日までに間に合うのかどうか、というせめぎ合いはずっとつきまとっていました。弊社は社員数がそれほど多いわけではないので、業務ごとに縦割りで細分化されている分、確認作業をまとめられる部署があるわけではなかったのが大変でした。

プロジェクトメンバーとしては16名が中心になってやっていますが、そこから案件ごとに各部署の方々に動いてもらえたのが本当によかったですね。そうやって多くの社員が連動したことでこのさよならプロジェクトは成立していったのだと思います。

――大勢が関わった、ある意味チーム東映のプロジェクトだったと。

みな通常業務で忙しい中、なんとかこのプロジェクトを成功させたいという気持ちを持っていたんだと思います。そんななか手伝ってくれる人が増えていくことで、「これは自分も参加しないと。しなきゃ。」という責任感が社内全体に生まれたんだと思います。このプロジェクトに参加できて本当に良かったと思っています。

インタビュー・文 / よしひろまさみち
撮影 / 岡本英理

「さよなら丸の内TOEI」

時代劇、任侠映画、文芸作品、アニメなど、往年の名作から話題作まで、同劇場のスクリーンを彩ってきた100を超える作品が特別上映。そのほか、各種関連イベントも実施中。

上映劇場:丸の内TOEI

提供:東映株式会社

2025年5月9日(金)から7月27日(日)まで開催中

公式サイト:marunouchi-toei-sayonara0727

パンフレット販売ページ:toei-onlinestore.com/shop/