「さよなら 丸の内TOEI」プロジェクトとは? 東映社員の有志メンバーが仕掛けた閉館イベントの舞台裏 ② 〜各自の専門性を活かした多岐にわたるタスクの遂行

東映株式会社 コンテンツ営業部営業室 所属
“さよなら 丸の内TOEI ” プロジェクト

版権 & 権利調整 担当

築井 健

東映株式会社 映画企画部企画製作室 所属
“さよなら 丸の内TOEI ” プロジェクト

タレント調整 & 舞台挨拶 担当

小杉 宝

――お二人は立ち上げ当初からこのプロジェクトに参加されたんですか?

築井 私は一本釣りされました。このプロジェクトは各部門から1人はピックアップして全社的なイベントにしないといけない、というなかで富﨑から24年9月に声がかかりました。通常業務のかたわらでやらないといけないことにしては、本気を出さないといけない企画なので、なかなか大変なことになるだろうとは思っていたんですが‥‥想像以上でしたね(笑)。ただ、自分がアイデアを出したら、その分は自分でやることになるけど、アイデアを出さなかったら仕事量は減るという自主的な企画なので、参加する熱量が違ったら携わり方が変わるんですよね。結果、けっこうな熱量でやらせていただいてますが。私はコンテンツ営業部で版権周りの仕事をしていて、旧作のライセンスに関わることは通常業務でもやっているんですが、このプロジェクトでもそこを担当しています。とにかく作品数が多いですし、おまけにスピード感も求められたのでなかなか苦労しました。

小杉 私は通常業務では、映画企画部でプロデューサーを務めています。飲み会の翌日、飲み会で話し合ったことをまとめて富﨑にプッシュしたのも私です。

――おっと! 小杉さんだったんですね!

小杉 そうなんですよ。飲み会での仕事の話って翌日には忘れがちじゃないですか。でも、せっかく盛り上がったのに無しになるのは勿体無いと思ったので、現場でみんなで話したことをメモにしてババーっとまとめて富﨑に渡したんです。私自身は細かい書類を作るのがあまり得意ではなくて(笑)、富﨑がササッと綺麗にリライトして会社にあげてくれました。私はプロジェクトでも通常業務と近い仕事になりまして、具体的には、舞台挨拶にお招きするタレントさんのブッキングや、芸能事務所との調整をメインに携わってきました。今回のプロジェクトは、作品のプロモーションではない異例の対応になるため、若干戸惑われる事務所さんや俳優さんはいらっしゃいました。俳優さんにとっては、作品が一つ公開されると、もうその作品の宣伝などで直接関わることはなくなるのが常ですから。なので、こちらもある意味ダメ元を覚悟して、「さよなら 丸の内TOEI」プロジェクトの上映作品として、なぜこの作品が選ばれたのか、とかいった理由をきちんと説明させていただいたことで、次第にご登壇を快諾される方が増えていったと思います。いや、本当にやってよかった。

築井 そのとおりですし、参加してよかったと思っています。私の作業としては普段は作品の二次使用に関することをやっているため、たとえば宣伝の櫻井とも喋る機会はこれまでなかったくらい、映画の部署と関わることがほとんどないんです。普段はまったく関わりがないけど、自分の会社のために自分のスキルを活かして動く人が集まるプロジェクトに関われたのは、とてもありがたい経験になりました。

――本格的にプロジェクトの仕事が始まったのは?

小杉 私は情報解禁してからだいぶ後でしたね。上映作品のラインナップが固まるまで時間がありましたので。

築井 私は告知用の映像を作ったり、パンフレットを作るタイミングで、原作者や監督、製作委員会など作品の権利者へのネゴをしていきました。それが、ものすごくスピード感を求められたんですよ。通常の作品プロモーションの枠組みではなく、特別な取り組みなので特別な対応をお願いします!とお願いしていったんですが、とにかく作品数が多かったですからね。でも、関係各社の皆さんには迅速にご協力をいただけたばかりか、我々の思いを理解していただいて、特別な条件をのんでいただくことができたので、ありがたかったです。

――小杉さんにおうかがいしたいのですが、とても豪華な舞台挨拶の数々で、それらは日々メディアが取り上げていますが、もっとも調整が難しかったのは?

小杉 すごく面白くない答えになってしまうんですが、そんなに苦労していないんですよ。お声掛けした皆さんはそれぞれに丸の内TOEIに思い出があったり、直営の映画館のクロージングイベントに少しでも力になれるなら、とすごくポジティブなお返事をくださることが多くて。皆さん協力的ですし、東映への愛を感じることばかりだったんです。たとえば、『老後の資金がありません!』(2021) でご登壇をお願いした天海祐希さんは、ご自身が『老後の〜』の本編を観たのが丸の内TOEIだったこともあって、すごく懐かしがってくださったんですよね。このように、皆さんの賛同があったからこそ、うまくまわったんだと思います。

――皆さんのお話をうかがっていて感じたんですが、そもそも東映の社風としてかなり自由な気質があるとはいえ、関わりのない社員も大勢いらっしゃる。それがこのプロジェクトでは一丸になることができて、会社の風通しもよくなってきたんじゃないか、と思っているんですが。いかがでしょう?

小杉 それはめちゃくちゃあると思います。築井さんとも仕事を一緒するのが久しぶりですもんね。

築井 もともと小杉とは以前所属していた部署のときに関わりがあったのですが、今のポジションになってからは関わる機会がなかったんです。でも、このプロジェクトでアイデア出しや自分のできることを提案したりとか、本当に楽しいんですよ。

小杉 そのとおりですね。参加させてもらえてよかったと思ってます。最初の飲み会メンバーで話しあったときは、若手から中堅まででワイワイしたノリでできればいい、と思っていたんですが、会社側から全社体制で挑むことを提案されたことで、いろんな部署にいるあらゆる世代のこのプロジェクトの賛同者たちが集まったのは、結果的にすごくよかった。普段かかわらない人がまったく違う視点の意見を出してくれることで、プロジェクトが当初考えていたものとはまったく違う、より大きく素晴らしいものになったと思っています。

――中小規模の配給会社が一丸となってなにかに取り組むことは当たり前にやっていることですが、興行も持っている大手が新作以外で全社で取り組むなんて聞いたことがないですもんね。

築井 そうですよね。今回、人事部や総務部、経営戦略部など、まったく映像事業に関わっていない部署のスタッフも参加しているので、本当に全社的な取り組みと言えると思います。最後の直営館のクロージングイベントという大きな企画ではありますが、それをみんなで作り上げていっている感じがしますし、これが東映のいいところだなとも思います。一致団結していって、新しい東映の絆みたいなものが生まれたように思います。

小杉 そうですよね、普通の事業だとしたら黒字化を目指した取り組みになるじゃないですか。もちろんこのプロジェクトも赤字にしてはいけないんですが、それ以前に金儲けしようという企画じゃないのがすごくいいんですよ。関わったことで、すごく健全だと感じていますし、学生時代の文化祭みたいに、ものづくりの楽しさを感じています。

東映株式会社 映画編成部管理室 所属
“さよなら 丸の内TOEI ” プロジェクト

クラウドファンディング 担当

中田 裕子

東映株式会社 映画営業部映画営業室 所属
“さよなら 丸の内TOEI ” プロジェクト

上映スケジュール編成・現場施策 担当

笠井 優之介

――お二人は立ち上げ当初からこのプロジェクトに参加されたんですか?

中田 私は飲み会からですね。

笠井 私は後から誘われて入りました。

――お二人の通常業務とプロジェクトでの役割は?

中田 私は普段は映画編成部管理室に所属していて、契約や権利関係の仕事をしていますが、プロジェクトではクラウドファンディングを担当しています。

笠井 私は映画営業部に所属していて、普段は劇場や商業施設と向き合っています。プロジェクトでは、上映スケジュールの編成を担当しています。スケジュールのラフを作り、登壇者のスケジュールなどを加味した上で興行部に確認を取り最終的な微調整をしています。映画営業部での業務を通じて、映画館とのやり取りもあることから、このポジションでプロジェクトから声をかけてもらったのだと思っています。

――富さんからお話を伺って、大きな会社を有志で動かす、というチャレンジも含めて、初動が早かったことがこのプロジェクトの勝因と感じました。

中田 そうですよね。飲み会の話で終わらせることもできましたから。このプロジェクトに関しては、頭ごなしに全否定する方はいなくて、誰もやったことがない話だから一度は話を聞いてみるか、という空気があったように思います。

笠井 東映の社風もあると思うんですよ。私達の仕事はいろいろあるにせよ、このプロジェクトは、東映という会社、東映にある作品群を一人でも多くの方に知っていただくということが大前提にあるので、前向きに考えてくれるメンバーが多かったのだと思います。

――通常業務と兼務されてみていかがでしたか?

中田 後悔はしていないのですが、ちょっと記憶が吹っ飛びそうなくらい大変なときもありましたね。特に、私が担当しているクラウドファンディングは、情報のローンチまでの間に社内的にしっかり認めてもらって、支援募集を始めるところまでもっていく必要がありました。そのほかにも、上映作品の権利クリアや告知に際して誰に気を遣わないといけないかを整理する業務をしながらだったので大変でしたね。しかも、今回のクラウドファンディングは何か特定のIPにかかわらない、「東映」という会社全体が社を上げてやるという、初めての挑戦でした。

――しかもクラファンの場合、プロジェクトが終わったあとが本番。クラファンの商品のアイデアも社内で?

中田 閉館した後にアップサイクル商品の制作があって、そのリターン発送もあるので、長丁場になります。クラウドファンディング自体、CAMPFIREさんからご提案いただいて、その話し合いの中でアップサイクル商品の制作というアイデアをいただきました。ただ、デザインの開発などはやったことがなかったので、先方からアドバイスをいただきつつ、メンバーの意見を聞いて進めました。

――笠井さんは通常業務と兼務で、かっちり決められない編成ラフを組んでいくのはなかなかのチャレンジだったのでは?

笠井 しんどい瞬間はありました。上映作品のラインナップが決まってから、富﨑と一緒にどの上映枠に何の作品を入れるか、パズルのような作業をし始めたのですが、上映尺の兼ね合いや興行部側からのリクエスト、日時によっては想定の客層も考えないといけなくて。そうすると、全部の要件を満たすのは不可能。だから、どこかに負担をかけないといけないんです。それが一番しんどかったですね。しかも、弊社のテントポール作品『宝島』(9月19日公開) の宣伝キャラバンが同時に動いており、通常業務で『宝島』のプロモーションスケジュールも組みながらやっているもので‥‥。「今、自分はどっちの仕事をしてるんだっけ??」と混乱する瞬間はありました。でも、こんなこと今しかできないですし、いろいろと先輩方からも意見をいただいているので、それを励みにしています。

――先輩方から言われたこととは?

笠井 東映の最後の直営館である丸の内TOEIをクローズする作業はやりたくてもできることじゃない、ってことですね。先輩方は、やりたくてもできないし、できているあなたがうらやましい、とおっしゃるんですよ。それを聞いて、あぁやっぱり特別なことなんだよな、と思うようになりました。

中田 その自覚もありますし、周りから私達を見ると日々新しいことができているのは、すごくプラスに見えるんじゃないですかね。

笠井 そうですよね。しんどいよりも前向きに考えてますしね。私のポリシーは、「お客様に喜んでいただくこと」なので、このプロジェクトに関わることで、それが目に見えるところで実現できていると感じています。たとえば、今劇場の外に飾っている全上映作品・イベントのポスターを集めた「劇場特製手作りポスター」ですが、あれは僕が勝手に作りました(笑)。お客様目線になったとき、どの作品が上映しているか文字情報だけでなくビジュアルで見せた方が良いのでは、と思って内緒で作り始めたんです。それでできたものをとりあえず富﨑に見せたのですが、「お、いいじゃん」ということになりまして(笑)。足を運んでくださったお客様にもポスターを前に写真を撮っていただけているのでやってよかったな、と思っています。

――日比谷〜丸の内エリアから、映画会社の直営館がなくなることについてはどう感じられてますか?

笠井 ある程度、古きを重んじることが大事だと思っているタイプの人間なので、寂しいんですよね。普段から映画館の方と向き合っているだけに、愛着ある映画館がなくなるのは悲しいです。でも、あまりネガティブな気持ちにならないように、ビジュアルやイベントを仕込んでいるので、古い作品、懐かしい部分を見ていただけるのはチャンスかな、とも思っています。たとえば、午前中に古い作品を上映するだけじゃなくて、会社帰りの時間に、20年前に公開された『男たちの大和/YAMATO』(2005)を上映するのも大事だと思っていますし。

中田 同僚たちに聞いても、後ろ向きに捉えている人がいないんですよね。もちろん今のこの社屋に愛着はあるんですが、未来に向かっていく大きな分岐点になると思っています。興行の部分はティ・ジョイがしっかりと担っていくことになり、直営館がなくなるさびしさはあるにせよ、新しい東映を見せていくチャンスだととらえています。この「さよなら 丸の内TOEI」のポスタービジュアルも、担当した櫻井が明るさを感じられるようにこだわってくれたので、同僚や友人に聞いても「いい意味で東映らしくなくて素敵」と言われるんですよ。なので、こういった新しい面を見せていくこと、それはクラファンも含めてですが、「東映がなんかやってるぞ!」と見せられるチャンスというように感じています。もちろん昔のことも大事にして、歴史をたどって未来につなぐというイメージ。上映作品をみても、かつての名作から最近の作品までラインナップに入れられたのは、若手からベテランまで全社で取り組んだからでしょうし。そうじゃなかったら『翔んで埼玉』は上映できなかったんじゃないかな(笑)。

インタビュー・文 / よしひろまさみち
撮影 / 岡本英理

「さよなら丸の内TOEI」

時代劇、任侠映画、文芸作品、アニメなど、往年の名作から話題作まで、同劇場のスクリーンを彩ってきた100を超える作品が特別上映。そのほか、各種関連イベントも実施中。

上映劇場:丸の内TOEI

提供:東映株式会社

2025年5月9日(金)から7月27日(日)まで開催中

公式サイト:marunouchi-toei-sayonara0727

パンフレット販売ページ:toei-onlinestore.com/shop/