綾野剛インタビュー  映画『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』 作品、そして人生への向き合い方

ーートラブルに翻弄される薮下の心象を表しているんじゃないかと思うような画作りが多く見受けられました。特に、亀梨和也さんと共演されている土砂降りのシーンは印象的でした。

雨自体、人によっては潤すものであり、体を冷ますものである。そのことによって、今自分が生きている実感につながるものでもある。起きているシチュエーションが変われば、雨の体が全て変わります。

映画的表現として、間接的なものより、雨という直接的なものの方が、三池さんが目指すものにより近かったのかもしれません。そういう意味では、亀梨さんとのシーンでの土砂降りは、打ちのめす雨。あの、撮影中、本気の嵐が来まして。

ーーそうなんですか? 風吹かせ過ぎなんじゃないか?と思うくらい激しい雨のシーンでしたけど‥‥。

本当の嵐です。持っている傘は吹っ飛び、役者もスタッフも全員びしょ濡れで、立ってても溺れるかと思いました。どれだけ声を放っても、かき消されるほどの嵐は、薮下の主観では”声は届かない”という印象になります。まさに亀梨さん演じる鳴海と豪雨は、これ以上ない最高のタッグとなりました。

作品制作への向き合い方

ーー本作も話題となったNetflixドラマシリーズ「地面師たち」と同じように、ベース・オン・トゥルー・ストーリーです。実際の出来事を基にした物語を演じる際、気をつけている部分はありますか?

誠実に向き合う以外ありません。僕の出演作で挙げると『楽園』も『日本で一番悪い奴ら』も事象やある視点の事実をベースにしている作品です。『八重の桜』もです。そういった作品に限らず、どの作品もそうですが、この作品を届けたいと旗を振った方々がいます。

今回の『でっちあげ』で言ったら、三池さんやプロデューサーの和佐野さん、その方々が目指しているものが何なのか、チームの一員として、ちゃんと理解する努力をする。知っていく作業をして共有することをとても大事にしています。そういった意味では、オリジナル作品も実話ベースのものも、漫画原作、小説原作も、どれも近い感覚で向き合っています。別の多面が必要になるのは、どちらかというと漫画原作です。

ーー何度か俳優さんに同じ質問をして、皆さんそう言われていました。

僕個人の感覚ですが、漫画として既に完成されているので、それを実写化にするか、映画化にするか、で、役作りのアプローチが大きく変わります。概念の話になってしまい恐縮ですが、Netflixシリーズ「幽☆遊☆白書」はどちらかというと実写化。冨樫義博先生が生み出されたキャラクター性感度を大切にし、漫画から飛び出してきたような写実性、ルックや印象、エッセンスの細部の表現を目指します。

『カラオケ行こ!』は、映画化でしょうか。和山やま先生が描かれた魅力的な物語を、野木亜紀子さんが脚本化し、山下敦弘さんが監督という作家性が織りなす事で生まれる化学反応。
あくまでもニュアンスですが、役を作るプロセスが全く異なります。原作者や編集者、読者の皆様の呼吸を、まず画から感じていく作業などが、漫画原作の難しくも魅力的な部分かと思います。


ーー冒頭15分からの展開に感情がを大きく揺さぶられました。振り幅がすごいなと思って観ていました。

三池さんのすごさですよね。いろんなジャンルの作品を生み出し続けているので、監督自身が持っているパーソナルな部分によるところが大きいと思います。

本作はルポルタージュをベースにしていますが、そこにホラーだとか、サスペンス、ヒューマンドラマといった要素が加わって、いろんなジャンルのアンサンブルが起こっています。芝居をしている役者の方も、1つの作品を演じているのに、多ジャンル要素をシーンによって表現されていると感じました。

もっと作家性に振り切った作品にすることもできますし、より重心を下げた内容の作品にもできる。そのどちらでもないエンタメという真ん中を作っていくことは、実に胆力が必要ですが、本作もひとつのエンタメとして、観てくださる方々の日常を映画が少しでも彩れたらと思っています。

ーーこれから本作を観る方へコメントをお願いします。

人生を大切に生きる、人生に親切になる。改めて現場に学ばせていただきました。映画を観るひとときをぜひ楽しんで頂けたら幸いです。

ーー観客の反応含め、公開が楽しみですね。

『でっちあげ』は6月公開ですが、『国宝』と(小栗)旬さんが出演している『フロントライン』も6月に公開されます。親交のある方々が6月に集まっていて、とても豊かですし、あらゆる人生に触れ、知り、体験できる映画に改めて感謝です。

取材 / 小倉靖史
撮影 / 曽我美芽

映画『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』

2003年。小学校教諭・薮下誠一は、保護者・氷室律子に児童・氷室拓翔への体罰で告発された。体罰とはものの言いようで、その内容は聞くに耐えない虐めだった。これを嗅ぎつけた週刊春報の記者・鳴海三千彦が“実名報道”に踏み切る。過激な言葉で飾られた記事は、瞬く間に世の中を震撼させ、薮下はマスコミの標的となった。誹謗中傷、裏切り、停職、壊れていく日常。次から次へと底なしの絶望が薮下をすり潰していく。一方、律子を擁護する声は多く、“550人もの大弁護団”が結成され、前代未聞の民事訴訟へと発展。誰もが律子側の勝利を切望し、確信していたのだが、法廷で薮下の口から語られたのは「すべて事実無根の“でっちあげ”」だという完全否認だった。

監督:三池崇史

原作:福田ますみ「でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相」(新潮文庫刊)

出演:綾野剛、柴咲コウ、亀梨和也、大倉孝二、小澤征悦、髙嶋政宏、迫田孝也、安藤玉恵、美村里江、峯村リエ、東野絢香、飯田基祐、三浦綺羅、木村文乃、光石研、 北村一輝、小林薫

配給:東映

©2007 福田ますみ/新潮社 ©2025「でっちあげ」製作委員会

2025年6月27日(金) 全国公開

公式サイト detchiagemovie