漫画家になるという夢を持つぐうたら高校生、明子。人気漫画家を目指していく彼女にはスパルタ絵画教師、日高先生との戦いと青春の記録があった。先生が望んだ二人の未来、明子がついた許されない嘘。宮崎、石川、東京、3つの街を舞台に、人生を変えた恩師とのかけがいのない日々、ずっと描くことができなかった9年間が今、鮮やかに甦る。
笑いと涙で人生を描き、日本中を励まし続ける伝説の漫画家・東村アキコ。その東村が初めて自身の半生を描いた自伝漫画『かくかくしかじか』が、永野芽郁と大泉洋を主演に迎えて映画化された。原作者である東村が“伊達さん”と共に脚本を担当、関和亮がメガホンをとる。
予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は『かくかくしかじか』の関和亮監督に、本作品や映画への思いなどを伺いました。

原作者とともに映画を作り上げる喜び
池ノ辺 今回は東村アキコさんの自伝漫画『かくかくしかじか』が原作です。今回、東村アキコさんも映画作りに参加されていますが、映画を作る側としてはどうでしたか。
関 僕が最初にこの話をいただいて、やりましょうとなった時に、まず東村先生に脚本を書いてほしいという思いがあったんです。というのも、漫画の中に描かれているセリフとかモノローグとかが僕はすごく好きで、これをきちんと実写にしたいという思いがあったので、最初から先生に脚本をお願いしたい、ということを伝えていました。それで先生の方から、実写の脚本は自分だけでは書けないとのことで、伊達さんと一緒にやることになったんです。それは僕らとしては本当に心強かったですよ。それで先生には「原作者」というスタッフのような形で参加していただきました(笑)。

池ノ辺 撮影中も、ずっと現場にいらしていたと伺いました。
関 何といってもご自身のお話ですし、ご自分の思いもあるし思い出もある。それを全て僕に伝えたいというのがあったんだと思います。本当にシナハン(シナリオハンティング)から一緒に来てくださったんです。
池ノ辺 ロケハンもですか。
関 シナハン、ロケハン、一緒でした。特に宮崎と石川はずっと一緒に周って、当時の思い出とか原作にも描かれていないようなお話もずいぶん伺いました。
池ノ辺 それはすごいですね。
関 そうなんです。やはり原作しかなくてそこに僕の想像とか発想で膨らませても限度があるんです。それを「ここは描かれていないけれど、こうだったんだよ」と本人に直接聞けるというのはありがたいです。例えばコメディの部分も、先生のコメディって独特のセンスなので、東村先生から「ここはこうじゃない?」というのが僕にはない発想だったりしたんです。

池ノ辺 例えばどんなところですか。
関 カラオケで明子が歌って踊るシーンがあるんですが、じゃあとにかく一度盛り上がってやってみましょうと。そしたら先生が、「私この時、工藤静香のマネしてたかも」という話になって、そしたらすかさず芽郁ちゃんが工藤静香の振りをマネして、それがすごく面白かったんですよ。これは僕にはない発想だなと(笑)。でも言われてみれば確かに、当時の女子大生がカラオケに行ったらやったかもですよね。そういう “東村イズム” を芽郁ちゃんもずいぶん注入されていたと思います。
池ノ辺 そういう話は、今まで漫画にも描かれていなかった東村さんが知れるみたいで、ファンにとっては嬉しいでしょうね。
関 そうですね。とはいえ、漫画5巻分を1本の映画にするわけですから、入れられないエピソードの方が多かったんですけど、ただ、物語のキーになる部分は描けているんじゃないかと思います。


