Apr 10, 2025 column

男性のメンタルヘルスを燻る『シンシン/SING SING』 (vol.65)

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刑務所を舞台にした映画やドラマには、さまざまな人間ドラマがある。過去の名作を遡れば、『ショーシャンクの空に』(1994) は、映画ファンに愛される名作として語り継がれるほどにリピーターが多かった映画。収監者同士の友情があらゆる奇跡の中で描かれた感動作は、2022年に4Kデジタルリマスター版で劇場公開され、再び感動を呼び起こした。今週末に日本で公開される新作映画『シンシン/SING SING』も、刑期中に舞台演劇に取り組むことで思いがけない絆を深めていく受刑者たちを描いた作品なので、このコラムでもご紹介。

負のスパイラルを断ち切る受刑者たちの舞台演劇

ニューヨーク州に現存する厳重警備の刑務所Sing Sing Correctional Facility (シンシン刑務所) の名前の由来は、この歴史ある刑務所の博物館ウェブサイトに掲載されている。

1825年の刑務所建設で、ライムストーン石材(Sing Sing Marble)が建築材料として使われているが、それは元々‘Sint Sinck’というモヒガン先住民族の村の名前が石を重ねてという意味だったそうで、開拓者によって、そのエリアがSing Singと改名されたことからきている。

人種の多様性と柔軟性が求められるようになったアメリカの20世紀。シンシン刑務所も、余暇で楽しめる野球など、個々に見合った更生プログラムが取り入れられるようになり、あのベーブ・ルースもシンシン刑務所内のグラウンドでプレイしたこともあるなど、歴史がある。

『シンシン/SING SING』はその刑務所で行われていた演劇活動をリードするプログラム「RTA」と、冤罪で収容された受刑者の無実を証明するための運動についての記事(2005年の米エスクァイア誌記事「The Sing Sing Follies」)を基に脚色された作品。

演劇部の名前はRTA(Rehabilitation Through The Arts) 。RTAは、シンシン刑務所の中で1996年に発足し、芸術を通して、心身ともに更生することを目指したプログラム。米国内の60パーセントの収監者が更生できずに刑務所に再監されるパターンが多いなかで、RTAのメンバーは3%のみと、収監者たちの負のスパイラルを断ち切る上で、有効な更生プログラムとして評価されている。

主人公ジョン・“ディヴァインG”・ホイットフィールドは無実の罪で収監され、法律の網目の中で無罪を証明できずにいた。好きだった舞台演劇に熱中することで現実逃避し、RTAの創立メンバーとなり、小説や脚本を描くことに専念。RTAのメンバーであるジョンと相棒のマイク・マイクは、次のパフォーマンスのために新しい演劇部メンバーをリクルートしていた。ジョンが目をつけたのが、収監者の中でも、とくにタチの悪そうなクラレンス“ディヴァイン・アイ”マクリン。近寄り難いカリスマに魅了されたジョンはクラレンスを演劇部に入部するよう説得。ジョンとマイク・マイクの話を聞きながら、舞台演劇なんてとバカにするクラレンス。しかし、オーディションの日、突然現れ、迫真の演技を披露。演劇部メンバーたちがその新人の到来に歓喜し、全員一致で新メンバーとして迎える。しかし、今までRTAの演目をほぼ一人で決めていたジョンは、クラレンスの突拍子もないアイディアの提案に動揺を隠せない。演劇部全員がクラレンスに賛同し、しかも最も重要な役までクラレンスに取られて面食らうジョンは、エゴを自制し、戸惑いながらも、自らが直面するハードルを乗り越えていくのである。