新作『ミッキー17』の公開に合わせて、監督の業績を彩る回顧展がロサンゼルス,アカデミー映画博物館で公開。過去作品が常設の映画館で上映されるなど、監督の人気が窺える。ジュノ監督は全米公開前に、NY のフィルムフォーラムのQ&Aに参加し、「僕の作品の主人公は『デューン砂の惑星PART2』のような立派なSF映画ヒーローとはちがい、靴下に穴が空いているような底抜けの小心者なんだ。」と語って観客の笑いを誘っていた。常に、世の中の空気を取り込んで、エンターテインメント映画を展開させてきたポン・ジュノ監督。重いニュースに潰されそうになっている人にうってつけの娯楽大作『ミッキー17』は、SF作品でありながら、人間臭さが残る作品で五感にあふれ、新たなポン・ジュノ作品の境地に我らを誘ってくれる。





全人未踏のヒューマン・プリンターが人類を滅ぼす ! ?
映画の舞台は近未来。小心者のミッキー・バーンズは友人にそそのかされ、借金地獄に陥り、その危機から脱出するために、宇宙コロニー開拓を目指す企業の宇宙船の船員となって人生のやり直しを決意 。しかし、地球でもついていなかったミッキーは宇宙でも同じ。契約書を読んでいなかったために、気づけばエクスペンダブル、つまり使い捨て人間の契約を結び、自らのDNAデータを悪徳企業に売却していた。現代の3Dプリンターはこの映画では過去の話。進化した近未来では、医療や生命科学の発展に欠かせない動物実験の代わりに、全身スキャンに同意した使い捨て人間が実験動物。ミッキーは、その精巧なコピーとして誕生したミッキ-1から、未知の新薬開発などの危険な任務に身を投じ、死んではすぐに新コピーとして生まれ変わる日々を送っていた。
ロバート・パティンソン演じるミッキー・バーンズは“ミッキー17”として再度生まれ変わる。しかし、これまでスキャンされたミッキーたちの記憶はそのDNAに残されていて、文句も言わずに17回もコピーされてきたミッキー17は、これまでより哲学的。さすがに誰一人として17回目の誕生を祝わなければ、彼の命を尊ぶ者もいない。これでいいのかと悶々とする時間は使い捨て人間にはない。営利まっしぐらの宇宙開拓リーダーの指令で、異生物の採取という危険な任務を遂行。氷の惑星に降り立つものの、雪渓の深い割れ目にはまり置いてきぼりにされる。誰も助けに来るはずはなく静かに死を待つミッキーの前に、お調子者のティモが登場し「きみはミッキー16だっけ?」とおどけてみせる。彼は、ミッキー17を助けにきたわけではなく、武器を取り戻しにきただけ。使い捨て人間になったミッキーには、友達からも無下な扱い。いざ、自らの運命を受け入れて宇宙生物クリーパーに食われると思いきや、ダンゴムシのようにコロコロ動くクリーパー集団はミッキー17をクレバスから脱出させる。初めて命を救われた喜びを味わったのも束の間、悪徳企業はすでにミッキーの新コピーをスキャン済。目の前に現れたミッキー18の性格は自身とは違う、たちの悪い攻撃的なミッキー。しかも、自分の部屋で唯一、信頼している彼女のナーシャにやさしくされ、鼻の下を伸ばしているのだった。
